神秘家列伝

『神秘家列伝』は、水木しげるが1997年から2004年にかけて季刊誌『怪』（角川書店）に連載した伝記漫画シリーズです。この作品では、古今東西の様々な分野で活躍した「神秘家」たちを、一話完結形式で描いています。登場人物たちは一見すると共通点がないように見えますが、水木しげる自身に影響を与えた先達であるという点で共通しています。水木しげるは、これらの人々を「変わり者の一団であり、個性のまま強力に生きる心臓の強い一団」と表現しています。

物語の案内役は、多くの場合水木しげる自身が務めますが、時にはねずみ男や山田（メガネ出っ歯）が登場することもあります。単行本は2000年から角川書店より刊行されましたが、当初は6話分の未収録がありました。その後、2004年から文庫版が刊行され、未収録だった6話分を含む全作品が収録されました。ただし、収録順は発表順ではなく、最終話である「平田篤胤」の回が最終巻ではなく、一つ前の巻に収録されています。2014年には『水木しげる漫画大全集』にて、初めて全話が発表順に収録されました。

各話では、以下のような人物が取り上げられています。

スウェーデンボルグ: 18世紀の科学者、神秘思想家。数学、天文学、機械工学、鉱山学など多岐にわたる分野で業績を残し、霊的な探求にも力を注ぎました。霊界を覗くことができるようになり、その様子を記録に残しました。
ミラレパ: 11世紀のチベットの密教行者。復讐のために黒魔術を使い村人を呪い殺しますが、その後、罪悪感から仏教の修行に励み、多くの信者と弟子を得ました。
マカンダル: ハイチのブードゥー教の指導者。奴隷として連れてこられた黒人たちの怒りを結集させ、奴隷反乱を主導しました。
明恵: 鎌倉時代の僧侶。19歳から見た夢を記録した「夢記」を残しています。また、修行中に見た淫らな夢に憤慨し、自らの耳を切り落としたという逸話が残っています。
安倍晴明: 平安時代の陰陽師。占いや呪術に長けており、多くの伝説が残っています。藤原道長などの貴族からも頼りにされていました。
長南年恵: 明治時代の宗教家。14年間絶食絶飲を続けながら健康を保ち、祈祷によって空き瓶に霊水を湧かせたという逸話が残っています。
コナン・ドイル: 作家。シャーロック・ホームズシリーズの作者として有名ですが、晩年は心霊主義に傾倒し、心霊研究にも力を注ぎました。
宮武外骨: 明治時代のジャーナリスト。政治や権力を風刺・批判する新聞・雑誌を発行し、何度も投獄されました。明治新聞雑誌文庫の設立に尽力しました。
出口王仁三郎: 大正時代の宗教家。大本教の指導者であり、独自の宗教観に基づいた活動を展開しました。大本事件で逮捕されました。
役小角: 飛鳥時代の修験道の開祖。神通力を使い、人々の悩みを解決したと言われています。鬼を使役し、葛城山と金峯山に橋を架けたという伝説が残っています。
井上円了: 明治時代の哲学者。哲学館（現東洋大学）を創立。妖怪研究会を設立し、妖怪の科学的な研究に尽力しました。
仙台四郎: 明治時代の人物。知的発達に遅れがありましたが、彼が立ち寄る店は繁盛するとされ、「福の神」として人々に親しまれました。
天狗小僧寅吉: 江戸時代の人物。天狗に師事し、占いがよく当たると評判でした。平田篤胤などの学者に研究されました。
駿府の安鶴: 江戸時代の左官職人。多芸多才で力も強く、憑き物を落としたという逸話が残っています。
柳田国男: 民俗学者。農村の研究や民話の収集を行い、「遠野物語」を発表。日本の民俗学の基礎を築きました。
泉鏡花: 小説家。尾崎紅葉に師事し、独特の幻想的な作風で知られています。潔癖症であり、化物や幽霊を愛しました。
* 平田篤胤: 江戸時代の国学者。国学、神仙、幽界の研究に尽力しました。独自の神道思想を確立しました。

『神秘家列伝』は、これらの個性的な人物たちの生き様を、水木しげる独自の視点で描いた、非常に読み応えのある作品です。単なる伝記漫画としてだけでなく、水木しげる自身の人生観や価値観が色濃く反映された作品として、多くの読者に愛されています。

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