腰岳

腰岳（こしだけ）

佐賀県伊万里市南部に位置する標高487.7mの山で、北松浦半島にあります。その特筆すべき点は、黒曜石の産地であることです。地元では「烏ん枕（からすんまくら）」とも呼ばれ、この黒曜石は、石器の材料として、遠く離れた地域まで運ばれて利用されていました。

地理

腰岳は、黒髪山系の北西に位置し、南には牧ノ山がそびえ、西には有田川が流れる谷が広がります。東には伊万里川、北には伊万里湾沿いの低地が広がり、山頂からは伊万里市街や伊万里湾、国見山などの素晴らしい眺望を楽しむことができます。特に、北側から見ると、円錐形の美しい山容をしています。

中腹には「千畳敷」と呼ばれる広大な草原が広がり、かつては牛馬の放牧地として利用されていました。この草原は、緩やかな斜面に位置し、約50ヘクタールもの広さがあります。また、腰岳の山頂部分は流紋岩で覆われており、その下部には黒曜石が含まれています。地元では、この黒曜石を「烏ん枕」と呼び、その破片が道や畑に散在していたため、農作業時には怪我を防ぐために厚い履物を着用していたそうです。

山頂の岩肌は、天候によって見え方が変わり、白く見えるときは天気が良く、灰色や黒っぽく見えるときは雨が降ると言われています。山麓には棚田や果樹園が点在し、ミカン栽培も行われていますが、近年は休耕地が増加傾向にあります。標高200m以上の場所には、広葉樹と針葉樹が混ざった森林が広がっています。

地質

腰岳の地質は、基盤となる杵島層群の砂岩層の上に、玄武岩や流紋岩が重なって形成されています。玄武岩は約1000万年前から700万年前、流紋岩は約280万年前から230万年前に噴出したと考えられています。黒曜石は、この流紋岩の中でも底部10mほどの部分に含まれており、特に底部の8mほどの部分は、石器の材料に適した良質な黒曜石を産出します。

腰岳の流紋岩は、縞模様が特徴的で、玄武岩は山腹で観察することができます。また、黒曜石は、長崎県の針尾島など、同じ時期に流紋岩が分布している場所でも産出します。

腰岳の山容は円錐形をしているため、成層火山と誤解されることもありますが、実際には、火山岩を含む地層が侵食によって残された地形の高まりです。

歴史

腰岳は、その美しい山容から「松浦富士」や「伊万里富士」とも呼ばれています。古くは「越山嶽」や「子思岳」とも書かれていました。千畳敷の近くには日蓮宗の題目塔が、山頂東側には弁財天が祀られており、信仰の場所としても歴史があります。

腰岳の西麓には、かつて広厳寺という寺がありましたが、後に移転しています。この寺は、かつて焼失した総持寺が再建されたもので、腰岳総持寺と呼ばれていました。また、1880年には、腰岳の千畳敷で小作争議が起こり、農民たちが決起しましたが、最終的には鎮圧されました。

考古学

腰岳産の黒曜石は、九州全域の先史時代の遺跡で発見されており、沖縄本島や朝鮮半島の遺跡からも出土していることから、遠くまで運搬され、利用されていたことがわかります。腰岳の山麓や周辺地域には、旧石器時代から縄文時代の遺跡が多く、黒曜石製の石器が出土しています。特に、北麓の低地や山頂部では、多くの遺跡が発見されており、黒曜石の採集や利用が古代から行われていたことがわかります。

黒曜石は、山麓の崖錐堆積物や河原の転石としても分布しており、広い範囲で採集することが可能です。旧石器時代の海退期には、伊万里湾にも黒曜石が堆積していたと考えられています。

また、腰岳以外の場所でも、腰岳産の黒曜石が発見されることがあり、過去の地形が現在と異なっていたことが示唆されています。

周辺

腰岳の北側中腹には、トラピスチヌ修道院があり、同じく中腹には桜並木が整備され、春には多くの人が訪れます。また、北麓にはホテルや、西麓には樹齢300年を超える藤の古木がある寺跡などがあります。

参考文献

『角川日本地名大辞典 41 佐賀県』角川書店、1982年3月
今井功、沢村孝之助、吉田尚『5万分の1地質図幅説明書 伊万里』地質調査所、1958年12月
二里町誌編纂委員会 編『二里町誌』二里公民館、2013年3月
日本の地質増補版編集委員会 編『日本の地質』（増補版）共立出版、2005年8月

関連項目

黒曜石
郷土富士

外部リンク

* 腰岳 - 伊万里市

もう一度検索