福地周夫

福地周夫：翔鶴の運用長として名を刻んだ海軍軍人、そして作家

福地周夫(1902-1996)は、日本海軍を代表する軍人の一人であり、戦後は作家としても活躍した人物です。佐賀県出身で、海軍兵学校52期生として卒業。同期には源田實、内藤雄、淵田美津雄といった錚々たる顔ぶれが名を連ねています。

海軍兵学校卒業後、福地は駆逐艦「葦」、海防艦「対馬」に勤務し、佐世保海兵団分隊長兼教官、戦艦「榛名」分隊長などを歴任。海軍航海学校を卒業するなど、着実にキャリアを積んでいきました。日中戦争勃発後は陸軍輸送船団指揮官を務め、重巡洋艦「足柄」運用長として青島攻略戦にも参加しています。

1941年8月、福地は空母「翔鶴」の運用長に就任。真珠湾攻撃をはじめ、珊瑚海海戦、第二次ソロモン海戦、南太平洋海戦といった、太平洋戦争を象徴する主要な海戦を経験しました。

特に「翔鶴」運用長としての活躍は、福地周夫の生涯における大きな功績として挙げられます。日本海軍の空母は、その構造上の脆弱性から爆撃への耐性が弱く、ミッドウェー海戦での壊滅的な損害がその弱点を見せつけました。「翔鶴」もまた、米軍機からの攻撃を受け被弾しましたが、福地の的確な防火指揮により、被害を最小限に抑えることに成功したのです。

珊瑚海海戦は、世界初の空母同士による洋上決戦として知られます。「翔鶴」は三発の被弾を受けましたが、福地の迅速かつ適切な消火活動は「獅子奮迅」と評されました。後任の艦長である有馬正文も、福地から学んだ防火防水対策を徹底し、可燃物の撤去、不要な爆弾の弾庫への収納、消火用ホースの準備などを実施しています。

福地は、ミッドウェー海戦直前の出撃前日、准士官以上の将兵を前に講演を行いました。その内容は、「空母艦内に飛行機がある状態で被弾した場合、1発で消火は困難であり、沈没は必至である」というものでした。しかし、講演中に主要指揮官幕僚が図上演習中で不在だったため、その内容は十分に伝わらずに終わってしまいました。この事実は、ミッドウェー海戦の敗北を目の当たりにした福地が抱いた悔恨の念を物語っています。

その後、福地は戦艦「陸奥」の運用長に転じますが、大動脈瘤と診断され（後に誤診と判明）、退艦した直後に「陸奥」は爆沈するという悲劇に見舞われます。その後、海兵運用科長、舞鶴鎮守府副官兼参謀を歴任し、1945年9月には大佐に昇進。同年11月に予備役編入となり、1947年11月には公職追放の仮指定を受けました。

戦後は作家として活動し、『空母翔鶴海戦記』、『海軍くろしお物語』、『海軍美談よもやま物語』など、数々の著作を発表しています。これらの著作は、福地自身の経験に基づいた貴重な記録であり、太平洋戦争における海軍の状況を知る上で重要な資料となっています。

福地周夫の生涯は、優秀な海軍軍人としての輝かしい功績と、戦争の悲劇を経験した一人の人間の苦悩が複雑に絡み合った、波乱に満ちたものでした。彼の経験と記録は、現在に至るまで多くの人々に影響を与え続けています。

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