福士幸次郎

福士 幸次郎（ふくし こうじろう）は、明治22年（1889年）11月5日に生まれ、昭和21年（1946年）10月11日に亡くなった日本の詩人、政治活動家です。その生涯は、文学、思想、政治など、多岐にわたる活動によって彩られました。

生涯と文学活動

福士幸次郎は、青森県弘前市で、かつて弘前藩に仕えた家の子として生まれました。彼の氏族である福士氏は、清和源氏義光流を遠祖とすると伝えられています。青森県立第三中学校（現在の青森高等学校）を中退後、1906年には国民英学会に入学しています。文学の道に進み、明治42年（1909年）に初の作品を発表しました。

大正期に入ると、詩人としての頭角を現します。大正3年（1914年）に第一詩集『太陽の子』を刊行。この作品は、それまでの文語定型詩が主流だった日本の詩壇において、口語を用いた自由詩の先駆的な役割を果たしました。これにより、福士は新しい詩の表現を切り拓いた一人として認識されるようになります。大正9年（1920年）には第二詩集『展望』を上梓するなど、精力的に詩作活動を続けました。

文学者たちとの交流も深く、明治44年（1911年）には秋田雨雀の紹介で作家の佐藤紅緑のもとに身を寄せました。佐藤紅緑とはその後も親交が続き、作詞家・詩人であるサトウハチローの後見人を務めることにもなります。また、医学者であり推理小説家、詩人でもある木々高太郎は福士に師事しました。木々は1915年に中学を卒業後、福士を追って上京し、後に慶応義塾大学医学部で学び医師となった後も、作家・詩人として活動しました。

郷里である弘前においても、文学運動に力を注ぎました。大正8年（1919年）には片岡梅枝と結婚。同年、弘前では一戸謙三らが「パストラル詩社」を結成しており、福士はこの詩社を指導する立場にありました。

多分野での活動と思想

福士幸次郎の活動は詩作にとどまりませんでした。大正14年（1925年）には東奥義塾で国語・漢文の教師を務めましたが、翌年には辞職しています。その後は青森日報社の主筆に就任するなど、言論人としても活躍しました。

評論の分野では、昭和5年（1930年）に『日本音数律論』を発表し、日本語の音律について独自の考察を展開しました。また、民俗学にも深い関心を持ち、昭和17年（1942年）には日本文化の源流を探る『原日本考』を著すなど、幅広い知識と探求心を示しました。

さらに、海外文学の翻訳も手掛けており、特にフランスの文豪ヴィクトル・ユーゴーの作品などを日本に紹介する役割も果たしています。

政治活動も福士の重要な側面の一つです。昭和7年（1932年）には日本ファシズム連盟を立ち上げました。これは当時の社会情勢の中で、彼が抱いていた思想や社会改革への意志が形になったものと言えます。

晩年と死去

福士幸次郎は昭和21年（1946年）、富山市で選挙応援中に病に倒れました。同年10月11日にその生涯を閉じています。墓所は東京都江東区にある済生院にあります。

多才な福士幸次郎の生涯は、その没後も関心を集めることがあります。例えば、NHKの月曜ドラマシリーズで2005年に放送された「ハチロー〜母の詩、父の詩〜」では、サトウハチローとの関係の中で、福士がメインキャラクターの一人として登場し、俳優の松方弘樹によって演じられました。

主な著作

『太陽の子 詩集』（洛陽堂 1914年）
『展望 詩集』（新潮社 1920年）
『詩の話』（玉川学園出版部 1930年）
『郷土と観念』（育生社弘道閣 1942年）
『原日本考』（三宝書院 1942-1943年）
『福士幸次郎著作集』（小山内時雄編 津軽書房 1967年）

主な翻訳

『トルストイ叢書第2 イワンイリイッチの死・主人と下男・高架索の捕虜』（新潮社 1916年）
『ボナール賞讃 レオン・ウエルト 世界現代作家選』（日本美術学院 1922年）
『世紀の伝説 長詩』ユーゴー著（冬夏社 1922年）
『城主 戯曲』ユーゴー著（冬夏社 1922年）

詩、評論、民俗学、政治活動など、様々な分野で足跡を残した福士幸次郎は、近代日本において独自の存在感を示した人物です。

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