福富ダム

福富ダムは、広島県東広島市福富町を流れる二級河川、沼田川の源流部に建設された多目的ダムです。このダムは、沼田川流域全体の総合的な開発計画の一環として位置づけられ、2008年にその本体が完成しました。翌2009年10月には竣工式が執り行われています。ダムによって形成された人造湖は、かつて独立した自治体であった福富町の町花にちなみ、「しゃくなげ湖」と名付けられました。広島県が管理する都道府県営ダムの中では、最も大きな規模を誇ります。

目的

福富ダム建設の主目的は、沼田川総合開発に基づき、流域の治水と利水に貢献することにあります。

具体的には：

洪水調節: 大雨時の河川流量を調整し、下流地域の洪水被害を防ぎます。
既得取水の安定化: 農業用水や工業用水など、既に存在する取水施設の安定的な運用を支援します。
河川環境の保全: 適切な流量を維持することで、河川生態系や景観の保全を図ります。
水道用水の供給: 東広島市を含む流域内への水道用水供給に加え、降水量の少ない瀬戸内海式気候に属する地域の特性を踏まえ、渇水時にも安定した水源を確保します。特に、向島や因島といった瀬戸内海の島嶼部への水道供給も重要な目的の一つです。

これらの目的は、過去の渇水経験から生まれたニーズに基づいています。例えば、1969年に完成した椋梨ダムなど、既に沼田川総合開発の一環として建設されたダムはありましたが、1994年の記録的な渇水により、さらなる水源確保の必要性が強く認識されました。この状況を受け、愛媛県大三島などの水道事業者からも水源の安定供給に関する要請があり、これに応える形で、当時の三原市や因島市を含む4市8町によって福富ダムの「建設促進同盟会」が結成される運びとなりました。

概要と建設経緯

福富ダムの建設地は、沼田川本流と支流の河内川が合流する地点の渓谷です。ダム計画に関する予備調査は1968年に始まり、1975年には事業が着手されましたが、国が建設案を正式に採択したのは1991年になってからです。「福富」というダム名称は、所在地である自治体名に由来しています。この名称は、1955年の村合併時の論争を収拾するため、当時の広島県知事大原博夫氏に一任され、中国の古典から引用して命名されたと伝えられています。

ダム建設にかかった総事業費は約370億7000万円でした。この費用は、広島県が全体の55パーセント、国が43.75パーセントを負担し、残りを三原市と東広島市が分担しました。ダム建設に伴い、水没予定地域にあった49戸が移転を余儀なくされ、475人の地権者が事業に協力しました。また、この事業は水源地域対策特別措置法の指定を受け、当時の国土庁は1997年に、ダム周辺住民の生活向上を図るため、公営住宅建設や上下水道整備など、23事業に総額134億円を投じる水源地域整備計画を発表しています。

工事は、まずダム建設によって水没する国道375号の代替道路建設から着手されました。その後、ダム本体工事へと移行し、2003年には仮排水路の建設、2004年には本体基礎部分の掘削が行われました。2005年からは本体コンクリートの打設や盛土が進められ、工事は順調に進行しました。しかし、完成を間近に控えた2007年 5月22日には、コンクリート製造プラントの解体作業中に労働災害が発生し、作業員3人が死傷するという痛ましい事故も起こっています。

ダム本体は2008年9月に完成し、当初、広島県は2009年春からの供用開始を目指していました。しかし、供用開始には、ダムが満水時の水圧に耐えうるかを実証する試験湛水が必要でしたが、2008年夏から2009年冬にかけてダム上流域の降水量が少なく、十分に貯水が進まなかったため、試験湛水が実施できず、ダムは一時的に「未完」の状態となりました。その後、貯水が進み、2009年 6月4日にはほぼ満水位に達しましたが、梅雨期の洪水期に入ったため、安全確保のために放流が行われました。この際の貯水率99.6パーセントの試験データを、広島県は土木研究所と協議した結果、「最高水位時と同等の安全性が確保できた」と判断し、2009年10月からの供用開始を決定しました。都道府県営ダムの場合、国の承認を経ずに県の判断で完成を認められるケースがあり、福富ダムもその一例です。広島県では、過去にも魚切ダムで同様に満水に至らない貯水率で供用開始を承認した事例があります。そして、正式な竣工式は2009年10月30日に行われました。

周辺

しゃくなげ湖の湖畔には、ダム建設により移転した世帯のための新たな住宅地や、旧福富町役場（現在の東広島市役所福富支所）や郵便局を含む新市街地「レイクヒル福富」が整備されました。また、国道375号線バイパス沿いには、地域活性化の拠点として道の駅「湖畔の里福富」が設置されています。この道の駅には、しゃくなげ湖を眺められる展望台や、レクリエーション施設などが併設されており、多くの人々が訪れます。なお、「しゃくなげ湖」という名称の人造湖は、新潟県にある三国川ダム（三国川）にも存在します。

関連事項

ダム
日本のダム
重力式コンクリートダム
多目的ダム
都道府県営ダム
水源地域対策特別措置法
椋梨ダム
三河ダム

外部リンク

福富ダム（広島県ホームページ）
ダム便覧福富ダム（一般財団法人日本ダム協会）

もう一度検索