福本柳一

福本柳一：激動の時代を駆け抜けた官僚・実業家

福本柳一（ふくもと りゅういち）は、1896年（明治29年）に生まれ、1991年（平成3年）に94歳で没した、日本の内務官僚、そして実業家です。官選県知事を歴任し、戦後は全日本空輸（全日空）の副社長として、日本の民間航空の発展に尽力しました。その生涯は、激動の時代とともにあり、多岐にわたる分野でその才能を発揮しました。

生い立ちと学歴

岡山県上房郡川面村（現在の高梁市）で、農業を営む福本万右衛門の次男として生を受けました。旧制高梁中学校、第六高等学校を経て、1922年3月には東京帝国大学法学部法律学科（英法）を卒業。在学中の1921年11月には、文官高等試験行政科試験に合格するという優秀な成績を収めました。

内務官僚としてのキャリア

1922年5月、司法官試補として横浜地方裁判所に配属され、その後東京地方裁判所でも勤務しました。しかし、1923年11月には帝都復興院属に転じ、内務官僚としてのキャリアを本格的にスタートさせます。

その後、神奈川県橘樹郡長を皮切りに、同県社会課、社会教育課、工場課、水産課、庶務課の各課長を歴任。福井県や新潟県では書記官・警察部長を務め、内務省社会局軍事扶助課長、厚生省書記官、内務省土木局道路課長、同警保局図書課長、情報局第四部長など、要職を歴任しました。これらの経験を通じて、行政官としての能力を磨き、幅広い分野で手腕を発揮しました。

1942年7月には愛媛県知事に就任。その後、東京都経済局長、埼玉県知事を経て、終戦直後の1945年8月には愛知県知事に転任しました。1946年1月には東海北陸地方行政事務局長に就任しましたが、同年、公職追放となり退官しました。戦前・戦中・戦後という激動の時代において、地方行政の中枢を担いました。

実業家としての転身と全日空での活躍

公職追放後は、自転車協議会理事長、大栄漁業株式会社社長などを務めた後、1952年に日本ヘリコプタ－輸送株式会社（現在の全日空）の常務取締役に就任。1957年には名古屋空港ビル取締役、そして全日本空輸株式会社の代表取締役常務となりました。その後、専務取締役、副社長を経て、1967年に顧問に就任。全日空創設時の資金問題に尽力し、日本の民間航空の発展に大きく貢献しました。1972年に退職するまで、航空業界の発展に生涯を捧げました。

エピソード：郡長の官舎と縁起直し

福本は、29歳という若さで神奈川県橘樹郡長に赴任した際、郡長の官舎に入居することになりました。しかし、その官舎は過去二代の郡長が病没していたため、郡役所の職員からは「縁起が悪い」と忠告を受けました。そこで、福本は社寺兵事課主任の池谷良助と相談し、稲毛神社の中村宮司にお祓いをしてもらい、その後官舎に入居しました。長男の一彦氏がこの官舎で誕生したことから、福本は「縁起直しとなった」と語っています。このエピソードは、福本の合理的な考え方と、困難に立ち向かう強さを象徴しています。

著作と参考文献

福本は、自身の人生を振り返った著作『私の人生行路』（1987年）を著しました。また、以下の文献でその生涯が詳しく紹介されています。

歴代知事編纂会編『新編日本の歴代知事』（1991年）
秦郁彦編『日本官僚制総合事典：1868 - 2000』（2001年）
* 松本洋幸「展示余話 最後の橘樹郡長・福本柳一」『開港のひろば』第76号、横浜開港資料館（2002年）

これらの文献は、福本柳一という人物を多角的に理解する上で非常に貴重な情報源です。

まとめ

福本柳一は、内務官僚として地方行政に携わり、戦後は実業家として航空業界の発展に尽力しました。その生涯は、激動の時代を生き抜いた証であり、多くの人々に勇気と希望を与える存在です。彼の功績は、日本の歴史において、決して忘れることはできないでしょう。

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