私の愛するテーマ

『私の愛するテーマ』作品解説

『私の愛するテーマ』（原題：Mon cher sujet）は、1988年に製作されたフランス・スイス合作の長編劇映画です。監督は、フランス・ヌーヴェルヴァーグを代表する映画作家ジャン＝リュック・ゴダールの公私にわたるパートナーであり、共同制作者としても知られるアンヌ＝マリー・ミエヴィルです。本作は、ミエヴィルにとって初の単独監督作品であり、彼女の映画作家としての才能を世界に示した記念碑的な作品となりました。

制作の背景

ミエヴィルは、1970年代からゴダールと共に数々の作品を制作し、共同監督としてもその手腕を発揮してきました。1975年の『パート2』では脚本と主演を務め、その後もゴダールの作品に深く関わってきました。また、ゴダールのハウスプロダクションであるソニマージュ（現在のペリフェリア）の代表も務めるなど、映画制作の現場で重要な役割を担ってきました。本作は、そのような経験を経て、満を持して発表されたミエヴィルの単独監督デビュー作であり、彼女自身の視点と感性が色濃く反映された作品と言えるでしょう。

上映と評価

『私の愛するテーマ』は、1988年5月に開催された第41回カンヌ国際映画祭で上映され、「若い映画賞」を受賞しました。同年9月には、トロント国際映画祭でも上映され、国際的な評価を高めました。日本では、シネマドゥシネマ配給により1990年 3月31日に公開され、「サガンのように、デュラスのようにも。」というキャッチコピーが話題を呼びました。このキャッチコピーは、フランスを代表する女性文学者であるフランソワーズ・サガンとマルグリット・デュラスの名を借り、本作の持つ文学的な雰囲気と女性たちの複雑な心情を描いていることを示唆しています。

ストーリー

物語は、20歳のアンジェール、その母である40歳のアニエス、そして祖母である60歳のオディールの3世代の女性たちの人生を描いています。それぞれが異なる年代を生きながら、悩みや葛藤、そして愛を経験していく姿が描かれます。サキソフォン奏者と結婚しているアンジェールはオペラ歌手を目指していますが、現実は厳しく、将来への不安を抱えています。妊娠と中絶を経験し、自身の生き方について深く考えます。一方、離婚後、翻訳家として自立した生活を送るアニエスは、二人の恋人との関係に悩んでいます。アンジェールは母の自由な生き方を羨ましく感じますが、そこにはそれぞれの苦悩があることを知ります。そして、夫に先立たれたオディールは、静かに人生を歩んでいます。物語の終盤、アンジェールが出産し、4代目の命が誕生します。

映画のテーマと特徴

この映画は、女性の生き方や家族の絆、世代間の価値観の違いをテーマにしています。ミエヴィル監督は、3世代の女性たちの視点を通して、それぞれの人生における喜びや苦しみ、そして変化を描き出しています。また、彼女の映画的才能が随所に見られ、映像と音楽を効果的に使用することで、登場人物たちの感情や心情を繊細に表現しています。音楽には、マーラー、シューベルト、モーツァルトといったクラシック音楽の名曲が使用されており、物語の深みを増す役割を果たしています。

本作のタイトルである「MON CHER SUJET」というフレーズは、後にゴダールが自身の作品の中で引用しており、ミエヴィルの作品に対する敬意を示しています。

作品データ

監督・脚本・編集：アンヌ＝マリー・ミエヴィル
撮影監督：ジャン＝ポール・ロザ・ダ・コスタ、ジャン＝ベルナール・ムヌー、マルタン・グレスマン、ダニエル・バロー
録音：ピエール・カミュ、ラウール・フリュオフ
美術・装飾：ファニー・ガリアルディーニ、イヴァン・ニクラス
音楽：レオ・フェレ
使用音楽：グスタフ・マーラー、フランツ・シューベルト、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト、クリストフ・ヴィリバルト・グルック、ガブリエル・フォーレ
プロデューサー：ルート・ヴァルトブルゲール
製作：JLGフィルム、フランス国立映画センター（CNC）、ラ・サンク、レ・フィルム・デュ・ジュディ、ラジオ・テレヴィジオン・スイス・ロマンド、ザナドゥ・フィルム、スイス連邦内務省（DFI）
形式：カラー - 35ミリフィルム - ビスタサイズ - ステレオ録音
ジャンル：ドラマ映画

キャスト

ガエル・ル・ロワ：アンジェール
アニー・ロマン：アニエス
エレーヌ・ルーセル：オディル
イヴ・ネフ：カルロ
ベルナール・ヴォランジェ：フランソワ
ハンス・ツィシュラー：ハンス
マルク・ダルノー：オーギュスト
その他、多数の俳優が出演

私の愛するテーマ