私立学校令

私立学校令（しりつがっこうれい）

私立学校令は、1899年（明治32年）8月3日に勅令第359号として公布され、翌8月4日から1947年（昭和22年）3月31日まで日本の私立学校に対して法的拘束力を持っていた法令です。この勅令は、公布から第二次世界大戦終結後の学制改革が行われる直前まで、国内の私立学校全般を広く統制する役割を担いました。その施行にあたっては、細則として私立学校令施行規則が定められました。

概要と位置付け

当初、私立学校令は全17条に附則3条を加えた計20条で構成されていました。その後、廃止されるまでに計4回の改正が行われ、最後の改正は国民学校令の施行に伴う1941年（昭和16年）の勅令によるものでした。

この法令は、私立学校のみを対象とした日本で最初の専門的な法令です。私立学校令の制定により、私学の法的基盤が一応整備され、近代日本の教育体系における私立学校の存在が公的に認められるようになったという肯定的な側面があります。その一方で、私学は国による教育政策、特に教育勅語を中心とした当時の天皇制教育体制のもとで、直接的・間接的に強い監督と統制を受けることになりました。これにより、私学が官公立学校と同様に国家の教育システムの中に組み込まれていったという評価も存在します。

主な内容

私立学校令の主な規定は以下の通りです。

私立学校は地方長官の監督下に置かれ、学校の設置や廃止、設立者の変更など重要な事項については監督官庁への届出や許可が必要とされました（第1条、第2条）。
学校の校長や教職員になることができない者（欠格条項）に関する規定が設けられました（第4条）。
監督官庁が、法令違反などの場合に私立学校に対して閉鎖命令を発することができる権限が定められました（第10条）。

他の学校令との関係

私立学校令は、小学校令、中学校令、高等学校令、大学令といった特定の学校種別を定める諸学校令に対して、一般法としての位置づけにありました。例えば、私立の中学校を設置する際には、まず中学校令に定められた要件を満たす手続きを行い、それに加えて私立学校令の要件を補完的に満たす必要がありました。なお、私立学校令のみに基づいて設置された学校は、主に各種学校として扱われました。

また、1941年（昭和16年）に国民学校制度が導入されると、私立の国民学校は認められなくなりました。それまで存在した私立小学校は、私立学校令のみによって設置された学校とみなされ、その教育課程が国民学校と同等である旨の認可を受けた場合に限り、その学校への在学が就学義務を履行したものと同等と扱われることになりました。

制定の背景

私立学校令が制定された背景には、明治中期以降の社会の変化がありました。条約改正に伴い、外国人が日本国内に居住することが広がるにつれて、外国人によって設立・運営される私立学校が増加しました。これらの学校には、キリスト教会を母体とするミッションスクールが多く含まれていました。

当時の文部省当局は、教育勅語を中心とした国家教育を推進しており、キリスト教系の学校が増えることに対して警戒感を抱いていました。そのため、当初の私立学校令は、こうした学校における宗教教育や宗教活動を規制することを主な意図としていたと考えられています。しかし、制定の議論が進むにつれて、法令の性質は特定の学校規制から、私立学校全体に対する統制へと変化していきました。

この変化の要因としては、当時の社会において私立学校が官公立学校に比べて低く見られがちであったこと（いわゆる「官尊民卑」の風潮）や、教育は国家の根幹に関わる事業であり、私学はその一部を代行するに過ぎないため厳格な監督が必要である、という考え方が強かったことが挙げられます。

なお、キリスト教系学校における宗教教育の規制は、私立学校令と同時期に発布された1899年（明治32年）の文部省訓令第12号、通称「宗教教育禁止令」を通じて強力に推し進められました。この訓令により、各種学校を除く全ての官公私立学校で、授業や課外活動における宗教教育・活動が全面的に禁止されました。これにより、多くのキリスト教系学校は教育方針の継続が困難になり、正規の学校（中学校、高等女学校など）としての認可を得るために宗教教育を断念するか、あるいは宗教教育を続けるために正規学校としての特典（徴兵猶予、上級学校への進学権など）を失うか、という厳しい選択を迫られました。例えば、宗教教育の継続を選択した青山学院では、特典喪失後に生徒の退学や転学が相次ぎ、一時的に経営が困難な状況に陥ったとされています。

改正

私立学校令は廃止までに以下の4回の改正が行われました。

1911年（明治44年）勅令第218号
1919年（大正8年）勅令第19号
1923年（大正12年）勅令第381号
* 1941年（昭和16年）勅令第156号

特に1911年（明治44年）の改正では、中学校や専門学校を設置する際に財団法人を組織することが義務付けられたほか、監督官庁にも学校長や教職員の解職権が付与されるなど、統制強化の側面が見られます。

廃止

第二次世界大戦が終結し、日本の民主化が進められる中で教育制度の抜本的な改革が行われました。これに伴い、私学のあり方についても見直しが求められました。戦前、私立学校は国家事業の一部を担う存在として捉えられ、強い監督や干渉を受けていましたが、戦時中には特に宗教系の学校が国家体制への協力を求める圧力にさらされるなど、有形無形の抑圧を受けました。こうした戦前の経験に対する反省や、戦後の新しい社会において私学が持つ公共的な役割が見直され、国の助成や振興が必要とされるようになったことを背景に、私立学校の自主性・自律性を重んじ、国による監督を大幅に縮小する方向へと転換が図られました。

この新たな私学政策は、教育基本法（1947年）、学校教育法（1947年）、そして私立学校の法的地位や運営を定める私立学校法（1949年）といった新しい法令体系の中で具体化されました。これらの新法によって、私立学校の自由な運営が広く認められるようになり、その結果、それまでの私立学校令は学校教育法附則第94条によって廃止され、私立学校令施行規則も学校教育法施行規則附則第82条によって廃止されました。

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