私軍

私軍・私戦について

私軍（わたくしいくさ）や私戦（しせん）は、近世以前の日本において、太政官符や幕府の命令といった公的な命令によらない武力行使や小規模な戦闘を指します。このような行為は、敵討ちや自力救済の一環として行われ、今日では「私戦」という用語が一般的に用いられています。西洋の「フェーデ」と似た概念とも言われています。

武士階層の私戦

当時の武士階層においては、領地の防衛や名誉の回復を目的に、敵対する者たちに対して武力を行使することがありました。特に鎌倉時代には、このような自発的な戦闘行為は「故戦（こせん）」と呼ばれ、防御行為は「防戦（ぼうせん）」と名付けられ、これらは合わせて「故戦防戦」として一括されました。中央権力の影響力が弱くなる局面では、法的手続きが無力化され、武士たちは自力救済としてこれらの戦闘を頻繁に行うようになったのです。

歴史的背景

平安時代において、当時の朝廷は反乱的な軍事行動、特に地方の反乱者を討伐する際には軍を起動しましたが、私軍や私戦の問題に関しては介入を控えました。たとえば平将門の乱では、将門が国司を襲撃するまで鎮圧が行われなかったことが象徴的です。しかし、私戦によって秩序が乱れたとして、他の武士たちもまた同様に私戦として非難され、朝廷の意に反する争いは厳罰に服せられることになりました。

後三年の役においては、源義家が戦後に朝廷に追討官符を請願しましたが、これが認められなかったため、彼は私戦と判定され、地位から罷免されることになりました。

武家政権の影響

鎌倉幕府が成立すると、その政策が変わり、故戦や防戦の抑制が図られるようになりました。1310年には刈田狼藉が犯罪として明文化され、私軍や私戦が生じる原因を取り除こうとする取り組みが進められました。この動きは室町幕府においても引き継がれ、私軍・私戦に関する禁令が幾度も発せられました。観応3年（1352年）には、防衛行動といえども処罰の対象とすることが決定されました。

戦国時代には、私軍・私戦に関する禁令がさらに強化され、永正13年の禁令では私戦に関連する行為が全所領の没収をもって処罰される可能性が示されていました。この結果、戦国大名たちは分国法で「喧嘩両成敗」とするルールを設け、私戦を抑圧する方向に進んでいきます。

私軍・私戦の終息

最終的に、私軍や私戦が日本から一掃されるのは、豊臣政権の施行した惣無事令によるものでした。この令に違反した者たちは「公儀の軍勢による征伐」を受け、これによって実質的に私戦の根絶が実現されました。こうした背景を踏まえると、私軍や私戦は日本の戦国時代における特異な現象であり、その後の統一国家形成において重要な考慮事項となったのです。

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