秋田喜代美

秋田喜代美（1957年 - ）は、日本の教育学および心理学の分野で顕著な功績を挙げた研究者であり、東京大学名誉教授です。専門分野は発達心理学、教育心理学、保育学、そして学校教育学と多岐にわたります。特に、子どもの発達、学習、保育、授業づくりといったテーマを中心に、理論と実践の両面から教育現場や政策に貢献しています。

経歴

大阪府に生まれた秋田氏は、お茶の水女子大学附属小学校、附属中学校、附属高等学校を経て、東京大学文学部社会学科を卒業しました。卒業後、富士銀行での勤務や専業主婦期間を経て、再び勉学の道に進み、東京大学教育学部に学士入学。1991年に東京大学大学院教育学研究科博士課程の単位を取得して退学後、1996年には「読書の発達過程: 読書に関わる認知的要因・社会的要因の心理学的検討」という論文で東京大学より博士（教育学）の学位を取得しました。

研究者としてのキャリアは、立教大学文学部助教授として始まり、その後、東京大学大学院教育学研究科教授に就任しました。2015年7月から2019年3月にかけては、東京大学大学院教育学研究科付属発達保育実践政策学センターの初代センター長を務め、保育研究の新たな拠点づくりを主導しました。また、国際的にも活動し、2012年から2019年2月まで、OECDの幼児教育・保育ネットワーク（ECEC Network）のビューローメンバーとして、国際的な教育政策形成に関与しました。2021年に東京大学を退任し、名誉教授の称号を得ています。

主要な役職と社会貢献

秋田氏は、その専門知識と経験を活かし、政府機関や多くの学術団体において重要な役職を歴任し、教育・保育分野の政策や研究の推進に深く関わっています。

現在（2023年4月以降）は、こども家庭庁のこども家庭審議会会長を務めており、日本のこども政策の中枢においてリーダーシップを発揮しています。それ以前にも、2019年9月から2023年3月まで内閣府の子ども子育て会議会長として、幼児教育・保育や子育て支援に関する政策立案に貢献しました。文部科学省では中央教育審議会の教員養成部会および教育課程部会の委員を務め、学校教育の質の向上に向けた議論に加わっています。厚生労働省では社会保障審議会委員、同児童部会長、同福祉分科会座長などを務め、児童福祉や社会保障の分野でも重要な役割を果たしました。

学術分野では、世界授業研究学会（WALS）の副会長を2012年から現在まで務め、国際的な授業研究の発展に寄与しています。国内では、日本保育会の第7代会長や日本読書学会の元会長を務めたほか、日本保育学会、日本読書学会、日本乳幼児教育学会、日本教育学会、日本教育心理学会、日本心理学会など、様々な主要学会で理事や代議員を務め、各分野の研究活動の活性化に尽力しました。

さらに、日本学術会議の会員・連携会員として学術振興に貢献し、国立教育政策研究所幼児教育センター上席フェロー、OECDイノベーションスクールネットワーク研究総括など、研究機関における要職も務めました。NPOブックスタート、文字活字文化推進機構、ソニー教育財団、児童教育振興財団、日本教材文化研究財団といった、教育・文化関連の財団やNPOの評議員も務めており、幅広い社会活動を展開しています。

研究活動と著作

秋田氏の研究は、子どもの読書の発達、学習心理学、保育の質、授業研究など多岐にわたります。特に、子どもの認知発達と社会環境が読書に与える影響に関する研究は、その学位論文をはじめ多くの著作で展開されており、この分野の先駆的な業績として高く評価されています。

主な単著には、『読書の発達過程』（風間書房、1997年）、『読書の発達心理学』（国土社、1998年）といった読書に関する著作のほか、『知をそだてる保育』（ひかりのくに、2000年）、『子どもをはぐくむ授業づくり』（岩波書店、2000年）、『学びの心理学』（左右社、2012年）、『保育のこころもち』（ひかりのくに、2009年）とその改訂版、続編など、保育や授業、学習に関する多数の著作があります。これらの著作は、研究成果を基に教育現場の実践に示唆を与える内容となっています。

共著、共訳、編著、監修も多数手がけており、藤江康彦氏との共著『授業研究と学習過程』（放送大学教育振興会、2010年）、佐藤学氏との共訳によるドナルド・ショーン『専門家の知恵』（ゆみる出版、2001年）、キャサリン・ルイス氏との共編著『授業の研究教師の研究』（明石書店、2008年）、佐藤学氏らとの共編著による『岩波講座教育』シリーズへの参加などが挙げられます。これらの共著・編著からは、国内外の研究者や実践家との協働を通じて、幅広いテーマに取り組む姿勢がうかがえます。

受賞歴

秋田氏の長年の研究活動は高く評価されており、複数の学術賞を受賞しています。

平成元年7月：日本教育心理学会城戸奨励賞
平成2年3月：（財）発達科学研究センター発達科学研究奨励賞
平成4年8月：日本読書学会読書科学研究奨励賞
平成26年8月：日本読書学会読書学会賞
平成27年11月：日本乳幼児教育学会学会論文賞（共著論文）
平成28年4月：こども環境学会ポスター発表賞（共同研究発表）
* 令和2年5月：こども環境学会学会賞著作・論文賞（共著第一著者）

これらの受賞は、秋田氏の研究が各分野で先駆的かつ重要な貢献を果たしていることの証です。

秋田喜代美氏は、その多岐にわたる研究、教育、そして政策・社会活動を通じて、日本の教育、保育、子育て支援の質の向上に不可欠な役割を果たしている、影響力のある学者です。

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