稲岡孝治郎

稲岡 孝治郎（いなおか こうじろう）

日本の実業家。1881年（明治14年）1月16日、兵庫県にて稲岡九平の二男として誕生。没年は明らかになっていない。族籍は兵庫県平民であった。

稲岡家は、もともと1841年に「木綿屋」の屋号で創業した歴史ある商家であった。江戸時代から積極的に江戸や大坂へ販路を拡大し、急速に発展。幕末には姫路藩内で最大規模の木綿問屋へと成長していた。しかし、1882年（明治15年）に始まった松方デフレを契機に、従来の綿織物業が衰退の時代を迎えると、家業は新たな方向転換を迫られる。

こうした状況下、1891年（明治24年）に「稲岡商店」を創業し、タオル製造業へと事業を転換。この新しい分野で活路を見出すことに成功する。特に1896年（明治29年）頃からは、中国を中心とした海外へのタオル輸出を開始し、これを機に事業はさらなる発展を遂げた。明治時代の末期には、稲岡商店は40か所に及ぶ工場と約1400人の職工を擁し、1140台ものタオル織機を稼働させる巨大企業へと成長する。多い年には、全国のタオル輸出総額の実に4分の1強を占めるまでになり、名実ともに国内最大のタオル製造業者としての地位を確立した。

孝治郎は、このような家業の流れの中で、早くからタオル製造業という新たな産業に強い関心を寄せた。この分野で成功を収めるための本質を深く研究し、技術や経営の要点を徹底的に磨いたとされる。そして、1906年（明治39年）には、事業の組織を資本金30万円の合名会社へと変更。これにより事業基盤をさらに強化した。後に、孝治郎は本家から分家している。

彼が代表を務めた稲岡商店は、兵庫県の西志方村にあった本工場に加え、宝殿、天神、池尻、田原の四ヶ所に分工場を展開。さらに、大阪、岡山、別府には出張所を設け、販売網を全国に広げた。その生産規模は飛躍的に増大し、月間の生産量は15万ダースを優に超えるに至る。これにより、日本のタオル製造業界において揺るぎない首位の地位を確立したのである。

稲岡商店の製品の中でも、特に「イカリ印タオル」は著名であり、その品質の高さから全国の業界において最優秀品として広く知れ渡り、高い評価を得ていた。

孝治郎自身の人物像としては、趣味はスポーツと読書であった。宗教は真宗本願寺派を信仰していた。主な住所は兵庫県印南郡西志方村横大路（現在の加古川市志方町横大路）に置き、また明石市相生町浜通には別宅を持っていた。

家族としては、父の九平がいる。妻は「より」といい、1888年生まれで、兵庫県の寺田政次の二女であった。孝治郎には娘がおり、その夫である四郎を養子として迎えた。四郎は1906年生まれで、稲岡家の家業に従事した。四郎と娘の間には、長男の毎一（1932年生まれ）と二男の必三（1934年生まれ）がおり、毎一は稲岡工業の社長を務め、必三も家業に関わった。1970年には、鐘紡との合弁で設立されたタオル販売会社「カネボウ・ベイエルシー」の社長を、この必三が務めている。このように、孝治郎が築き上げた事業は、その後の世代にも引き継がれていった。

もう一度検索