稲毛屋山

稲毛屋山：江戸時代後期の篆刻家

稲毛屋山は、宝暦5年（1755年）に讃岐高松藩士の家に生まれ、文政6年（1823年）に69歳で亡くなった江戸時代後期の篆刻家です。屋山の名は直道、字は聖民、通称は官右衛門で、屋山は号、息斎や燕々居といった別号も用いました。

経歴と師事

屋山の家系は秩父畠山氏を祖とする高松藩の重臣の家系に連なります。父である稲毛重善も藩士でしたが、病弱だった屋山は仕官を免除され、若くして京都へ遊学しました。そこで、著名な篆刻家である皆川淇園に師事し、その高弟となりました。

京都滞在中には、柴野栗山とも交流がありました。栗山は屋山の篆刻の才能を見抜き、当時江戸で活躍していた高芙蓉に入門するよう勧めました。屋山は高芙蓉に師事し、その温厚な人柄から芙蓉の厚い信頼を得て、印の製作を共同で行うほど親密な関係を築きました。芙蓉の死後には、その蔵書や書画などを継承しています。

高芙蓉との師弟関係と活躍

高芙蓉との師弟関係は、屋山の篆刻家としての道を大きく拓きました。芙蓉の死後、屋山の名声はさらに高まり、多くの依頼が舞い込むようになりました。その腕前は、柴野栗山をして「芙蓉の再来」と言わしめるほどであったといいます。

高芙蓉の墓碑の建立に携わったことも、屋山の活躍を物語っています。当初、橘茂喬が墓碑を刻しましたが、何らかの事情で建立されず、茂喬が亡くなってしまいました。屋山は、浜村蔵六二世とともに、この墓碑を小石川無量院に建立しました。

晩年と交友関係

晩年は不忍池畔に燕々居という庵を結び、隠居生活を送りました。山本北山、亀田鵬斎、菊池五山など、多くの文人墨客と交流し、その交友関係から生まれた詩文を編纂した『采風集』（1808年）を著しています。

文政6年、郷里の讃岐に帰郷しますが、病気のため亡くなりました。

作品

屋山は多くの作品を残しており、その代表作として以下のものが挙げられます。

『江霞印影』（1797年）
『飲中八仙歌印譜』
『損益十友図』
『采風集』（1808年）

これらの作品は、屋山の高い技術と芸術性を示すものであり、現在でも高く評価されています。屋山の生涯は、才能、師との出会い、そして人との繋がりによって築き上げられた、充実したものであったと言えるでしょう。その功績は、江戸時代後期の篆刻史において重要な位置を占めています。

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