稲田邦植

稲田邦植：戊辰戦争から北海道開拓、そして華族の生涯

稲田邦植（いなだ くにたね、1855年-1931年）は、代々徳島藩の筆頭家老を務め、淡路国洲本城主であった名家・稲田家の16代当主です。維新後には男爵位を授かり、北海道の開拓にも大きく貢献しました。激動の時代を生き抜き、華族としての人生を全うした彼の生涯は、日本の近代史を象徴する物語と言えるでしょう。

幼少期と家督相続

稲田邦植は、安政2年（1855年）、稲田家14代当主・稲田植乗の長男として誕生しました。幼名は小八郎。しかし、父を早くに亡くし、15代当主・稲田植誠の養子となりました。慶応元年（1865年）、わずか11歳で家督を相続し、「九郎兵衛」と名乗ります。

戊辰戦争と新政府への帰順

徳島藩が佐幕派であった一方、邦植は尊皇攘夷の志を持っていました。そのため、新政府軍に早くから帰順。慶応4年（1868年）、鳥羽・伏見の戦いで日の御門を守衛するなど、重要な役割を担いました。その後も、摂津国西宮への出兵や高松藩の征討、有栖川宮熾仁親王の護衛に従事しますが、これらの行動は徳島藩の許可を得たものではなく、藩との対立を深めることとなります。

北海道開拓への尽力

明治3年（1870年）、庚午事変により稲田家は兵庫県に属することになります。同年、新政府から北海道静内郡（現在の北海道新ひだか町の一部）および色丹島を賜り、開拓を命じられました。しかし、開拓は容易ではありませんでした。明治4年（1871年）、廃藩置県により北海道開拓使の管轄下となり、領有権は失われますが、開拓使の属官として静内の開拓に尽力しました。明治5年に稲田邸が完成し、明治6年（1873年）、邦植は家族と共に静内へ移住しました。

西南戦争と軍務

明治10年（1877年）、西南戦争が勃発すると、邦植は予備少尉の任を受け、旧家臣と共に東京へ出陣しました。その後、明治12年（1879年）には陸軍少尉となり、札幌に在勤。静内での実務は弟の邦衛が担いました。

晩年と没後

明治28年（1895年）、邦植は静内の土地建物を弟に譲り、徳島県へ引退。明治29年（1896年）、勤王と北海道開拓の功績により男爵に叙せられます。その後、正四位に叙せられ、甥の稲田昌植を養子として迎えました。大正9年（1920年）に隠居し、同年、昌植が男爵位を継承しました。昭和6年（1931年）、邦植は逝去。墓所は洲本市の江国寺です。

家族と親族

邦植の家族や親族も、それぞれ重要な役割を担っていました。姉は加納平次右衛門の妻、妹は酒井忠匡、後に北海道大学初代総長・佐藤昌介の妻となりました。弟の稲田邦衛は、静内での開拓事業を支えました。養子である稲田昌植は、佐藤昌介の次男であり、貴族院議員を務めました。

功績と評価

稲田邦植の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の貴族の物語としてだけでなく、戊辰戦争における貢献、北海道開拓への尽力、そして華族社会における役割など、多角的な視点から評価されるべきでしょう。彼の功績は、日本の近代化に貢献した数々の出来事と深く関わっており、歴史的にも重要な意味を持ちます。彼の生涯は、単なる貴族の物語を超えて、日本の近代史の一端を担う重要な記録として、後世に語り継がれるべきものです。

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