稲葉正善

稲葉正善：激動の幕末明治を生き抜いた館山藩主

稲葉正善は、江戸時代末期から明治時代にかけて活躍した、安房国館山藩の第5代にして最後の藩主です。1848年（嘉永元年）に岩槻藩主・大岡忠恕の次男として誕生し、幼少期から華麗な家柄の中で育ちました。しかし、彼の生涯は、単なる名家の跡取りとしての生ではありませんでした。幕末という激動の時代を生き抜き、藩主としての責務を果たすだけでなく、時代の変化に対応していく手腕を見せた人物として知られています。

養子入りと藩主就任

1861年（文久元年）、まだ13歳の若さで館山藩主・稲葉正巳の養子となりました。これは、彼自身の能力と、彼を取り巻く政治状況を反映した重要な出来事でした。同年、将軍徳川家茂に拝謁し、その後従五位下・備後守に叙任されています。1864年（元治元年）、養父正巳の隠居に伴い、わずか16歳で館山藩の藩主を継承しました。この時代は、幕府の権威が衰え、倒幕の動きが活発化する時代であり、稲葉正善はまさにその渦中に身を置いたことになります。

幕末の動乱と対応

1867年（慶応3年）には、幕府の海軍整備に3000両もの献金を申し出るなど、時代状況を的確に捉え、柔軟な対応を試みています。翌年には、海軍練習所のイギリス人教師から英学と数学を学ぶことを願い出るなど、西洋の技術を取り入れる必要性を認識していたことが伺えます。1868年（慶応4年）、上洛して恭順の姿勢を示しましたが、養父正巳が長く幕府の要職に就いていたことから、厳しい詰問を受けるなど、難しい立場に置かれました。

明治政府への対応と晩年

1869年（明治2年）の版籍奉還により、館山藩知事となり、明治政府への対応に奔走しました。1871年（明治4年）の廃藩置県で館山県知事に就任し、地方行政の最前線で活躍します。1884年（明治17年）には子爵に叙爵され、華族としての地位を得ました。しかし、自身は実子に恵まれず、稲葉久通の四男である正顕を養子に迎えて家督を継がせました。これは、稲葉家存続のための賢明な決断だったと言えるでしょう。1902年（明治35年）、54歳で生涯を閉じました。

人物像と功績

稲葉正善は、激動の時代を生き抜き、藩主、知事、そして華族として、それぞれの立場において役割を果たした人物でした。単に家柄だけで地位を得たのではなく、時代の変化に対応し、柔軟な対応と決断力を持って、困難な状況を乗り越えていきました。彼の生涯は、幕末から明治という激動期を生き抜いた、重要な歴史的証言となっています。養父や周囲の人々との関係、政治判断の背景など、更なる研究によって、彼の全貌が明らかになる可能性を秘めていると言えるでしょう。彼の功績は、単なる藩主としての役割を超え、明治日本の発展に貢献した側面も多分にあると考えられます。

家族

実父：大岡忠恕（岩槻藩主）
養父：稲葉正巳（館山藩主）
妻：中川芳子（中川久昭の娘）
養子：稲葉正顕（稲葉久通の四男）

栄典

* 1902年（明治35年）3月18日：従三位

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