中川久昭

中川久昭：幕末の動乱期を生きた豊後岡藩主

中川久昭は、豊後岡藩を治めた第12代藩主です。1820年（文政3年）、伊勢津藩主・藤堂高兌の次男として誕生しました。1840年（天保11年）、豊後岡藩第11代藩主・中川久教の死去に伴い、久教の養女である栄子と結婚、婿養子として家督を相続しました。同年に従五位下修理大夫に叙任されています。

久昭が藩主となった時代は、尊王攘夷運動が盛んになり、幕末の動乱へと突入していく時代でした。岡藩内では尊王派が台頭していましたが、久昭は徳川家に近い藤堂家出身であったことから、藩政運営においては難しい立場に置かれました。

1841年（天保12年）、久昭は柳井藻次郎や小河一敏ら、尊王思想を掲げる家臣たちを藩政の中枢から排除しました。この出来事は「岡藩七人衆の変」として知られています。後に小河は尊王攘夷運動の中心人物である真木保臣と連携し、寺田屋騒動にも関与しました。小河は久昭に対しても尊王の姿勢を訴えましたが、久昭は動乱を傍観する立場を貫きました。

久昭の治世下、岡藩は度重なる災害に見舞われ、藩財政は悪化の一途を辿りました。大火や風雨による被害は、藩の経済状況を大きく圧迫しました。こうした困難な状況の中、久昭は藩の維持・安定に尽力しました。

1868年（慶応4年）、久昭は上洛を果たしました。しかし、明治維新後、1869年（明治2年）には駿府への派兵が遅れたことを理由に謹慎を命じられます。同年、版籍奉還を行い、知藩事に就任しました。そして同年、長男の久成に家督を譲り、隠居しました。

久昭は、複雑な政治情勢の中、難しい選択を迫られながらも、岡藩の存続に努めました。尊王派と幕府との間で揺れ動く時代、彼は藩の安定を優先し、穏健な姿勢を保ちました。その決断は、必ずしも全ての人々の支持を得たわけではありませんでしたが、藩の存続という点においては一定の成果を上げたと言えるでしょう。

1889年（明治22年）、70歳で生涯を閉じました。

系譜

父：藤堂高兌（1781-1825）
母：藤堂高兌の侍女
養父：中川久教（1800-1840）
正室：豊子（加藤泰済の娘、中川久教の養女）
長男：久成（1850-1897）
女子：栄子（1849-1922、細川行真正室のち小野鉄太郎室）
女子：芳子（1853-?、稲葉正善正室）
生母不詳の子女：次男・板倉久知（1859-?）、男子・武夫

栄典

* 1889年（明治22年）11月30日：従三位

中川久昭は、幕末という激動の時代にあって、藩主としての重責を担い、難しい舵取りを強いられた人物でした。彼の生涯は、時代の変化の中で翻弄されながらも、藩の安定と存続のために尽力した、複雑で興味深い歴史の一端を示しています。

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