穂積親王

穂積親王：激動の時代を生きた皇子の生涯

穂積親王（ほづみしんのう）は、天武天皇の第五皇子として生まれ、激動の奈良時代初期を生きた人物です。彼の前半生は謎に包まれていますが、持統天皇の時代からその名が歴史に刻まれ始め、文武天皇、元明天皇の時代には知太政官事として政治の中枢で活躍しました。

謎多き前半生

穂積親王の前半生については、史料が少なく不明な点が多く残されています。確認できる記録としては、持統天皇5年（691年）に500戸の封戸を与えられたことが挙げられます。この時、彼は浄広弐という冠位を持っていました。

また、『万葉集』に収録された歌などから、藤原不比等の姪にあたる但馬皇女との密通があったとする説も存在します。この事件が事実であれば、一時的に左遷されていた可能性も指摘されています。しかし、これらの情報はあくまで推測の域を出ず、真相は定かではありません。

知太政官事として

文武天皇の時代に入ると、穂積親王は政治の舞台で重要な役割を果たすようになります。大宝元年（701年）に大宝令が制定され、位階制度が導入されると、彼は三品に叙せられました。持統上皇の崩御に際しては、殯宮司や御装長官といった重要な役職を務めています。慶雲2年（705年）には、異母兄である忍壁親王の死去に伴い、知太政官事に任ぜられました。これにより、穂積親王は太政官のトップとして、左大臣の石上麻呂、右大臣の藤原不比等と共に政権を支えることになります。元明天皇の時代にも引き続き知太政官事を務め、政治手腕を発揮しました。

和銅8年（715年）には一品に叙せられますが、その年の7月27日に死去しました。享年は40代前半と推定されています。群馬県にある多胡碑には、和銅4年（711年）に「太政官二品穂積親王」という彼の名前が刻まれています。また、高松塚古墳の被葬者とする説も存在します。

万葉歌人としての側面

穂積親王は、政治家としてだけでなく、歌人としても才能を発揮しました。『万葉集』には、彼の歌が4首収録されています。特に有名なのは、但馬皇女の死を悼んで詠んだ歌です。

降る雪はあはにな降りそ吉隠の猪養の岡の寒からまくに

この歌は、雪が激しく降る様子を、愛する人の死を悲しむ心情と重ね合わせて詠んだものと解釈されています。また、過去の恋を回想した歌も残されており、彼の豊かな感情が伺えます。

家にありし櫃に鑠さし蔵めてし　恋の奴のつかみかかりて

穂積親王の系譜

父: 天武天皇
母: 蘇我大蕤娘（蘇我赤兄の娘）
同母妹: 紀皇女、田形皇女（六人部王妃）
妃: 大伴坂上郎女（大伴安麻呂の娘） - のち異母兄・大伴宿奈麻呂の妻
* 男子: 上道王、境部王

穂積親王は、天武天皇という強大な権力者の血を引く一方で、蘇我氏という有力豪族の血も引いていました。また、彼自身も大伴氏の女性を妻としており、当時の政治状況を反映した人間関係を築いていたことが伺えます。

まとめ

穂積親王は、激動の奈良時代初期に、政治家、歌人として活躍した人物です。彼の生涯は、史料の少なさから不明な点も多いですが、残された記録や歌を通して、その人物像を垣間見ることができます。知太政官事として政治を支え、万葉歌人として情感豊かな歌を詠んだ穂積親王。彼の足跡は、日本の古代史に確かに刻まれています。

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