穴太衆

穴太衆とは

穴太衆（あのうしゅう）は、近世初期、特に織豊時代（安土桃山時代）に活躍した石工の集団です。彼らは主に寺院や城郭の石垣を施工する技術者集団であり、「石工衆」や「石垣職人」とも呼ばれました。その名前の由来となった「穴太」は、歴史的仮名遣いでは「あなふ」と読みます。

概要

穴太衆は、近江の比叡山山麓にある穴太（現在の滋賀県大津市坂本穴太）出身とされています。この地は、延暦寺や日吉大社の門前町である坂本の近郊に位置し、古墳築造を行っていた石工の末裔であると伝えられています。

当初は寺院の石工を任されていましたが、その高い技術が認められ、安土城の石垣を施工したことで、織田信長や豊臣秀吉らによって城郭の石垣構築にも携わるようになりました。以降、江戸時代初頭にかけて、多くの城の石垣が彼らの指揮のもとで築かれました。彼らは全国の藩に召し抱えられ、城石垣の施工に携わったとされていますが、その詳細は不明な点も多いです。

現在でも、坂本の町には「里坊」と呼ばれる延暦寺の末端の寺院群が多数立ち並んでおり、それらは穴太衆が組んだ石垣で囲まれ、独特の景観を形成しています。

穴太積

穴太積（あのうづみ）とは、野面積（のづらづみ）を指す俗称であり、昭和初期以降に用いられるようになりました。これは、穴太衆が手がけた野面積の石垣を指します。ただし、野面積全般が穴太石垣と誤解されることもあります。穴太衆は石垣職人であるため、実際には玉石積や切石積も行うことができました。

近年では、新名神高速道路の建設において、自然環境との調和を目指して穴太積が採用されました。その際、京都大学大学院による実験が行われ、穴太積とコンクリートブロックの擁壁に最大荷重をかけたところ、コンクリートブロックの方が先に亀裂が入り、崩壊の恐れがあるという結果が出ました。この結果を受け、工事現場から出土した花崗岩を再利用した石垣が建設されています。

諸家

穴太衆には、後藤家と粟田家という代表的な家系があります。

後藤家

後藤家の石垣職人としての始まりは、後藤基次（又兵衛）が加藤清正から石垣技術を伝授されたことに始まります。基次は『城石垣始秘伝抄』の「城取りの石垣の事」にもその名を残しています。しかし、大坂夏の陣で討ち死にする際、基次は腹違いの弟である彦八（後の初代後藤杢兵衛）に、これまで学んだ成果を『石垣根元抄』として伝授しました。この書は後藤家の家宝となり、一子相伝の秘伝として守られました。後藤家が関わった石垣としては、加賀[[藩]]金沢城が有名です。

穴太衆が築いたとされる石垣のある城としては、他に安土城、彦根城、竹田城、篠山城、角牟礼城などが挙げられます。

粟田家

粟田家は、江戸時代初期の阿波屋喜兵衛を祖とし、現在も会社組織として存続しています。1964年に粟田建設を商号とし、1972年に有限会社化、2005年に株式会社化されました。2017年時点では、粟田純徳氏が「第十五代目穴太衆頭」として活動しています。

粟田家は代々、坂本を門前町とする比叡山延暦寺の石積みの仕事を手掛けてきました。第二次世界大戦後には、竹田城や篠山城、安土城や彦根城、さらに高知城、洲本城などの石垣修復にも携わりました。近年は文化財の修復にも競争入札が導入され、受注が難しくなっているものの、アメリカでのワークショップで野面積の頑丈さと芸術性が評価され、ダラスのロレックス支社などでも施工を行っています。

粟田氏の話によれば、「先祖は阿波国から来た」とされています。

石工に関連した伝説

日本一の高さの石垣を誇る丸亀城を築いた山崎氏と、石垣職人の羽坂重三郎に関する伝説があります。羽坂の石垣を登る技術に驚いた山崎氏が、軍事機密の漏洩を恐れて羽坂を井戸に誘い込み、暗殺したというものです。また、『石垣築様目録』には、丸亀城の石垣から学んだとされる記述があり、羽坂の技術が広まった可能性を示唆しています。この目録には、丸亀城の扇形の配置・配列を数字で暗号化した記述があります。羽坂の伝説はともかくとして、『石垣築様目録』の記述は、四国東部系統の石垣職人の技法を手本とした事実を記しています。

海外での活動

日本の石垣職人は、朝鮮出兵時にも活動していたと考えられており、倭城の石垣が確認されています。考古学的な研究によれば、近世城郭は「中国型」「東海型」「近畿型」「東海北陸型」「中部型」の5類型に大別され、朝鮮半島の倭城は「近畿型が主流で、これに中国型が加わる」とされています。このことから、石垣職人も近畿・中国系統であると考えられています。

近年では、アメリカなど海外でも石垣の施工が行われています。

関連項目

石垣 - 石垣の積み方
泉州石工

外部リンク

粟田建設
穴太衆石積みの歴史と技法 (PDF)

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