穴蔵

穴蔵（あなぐら）

穴蔵とは、地面や山盛り土の斜面に横穴や竪穴を掘って作られた、または既存のものを利用した倉庫のことです。地下倉庫、穴倉、窖とも表記されます。寒冷地では、冬季に藁仕事などをするための地下作業場としても使われました。

歴史

日本における穴蔵の成立時期は正確には不明ですが、『親長卿記』の文明10年（1478年）の記録には、火災の際に穴蔵に武具を納めたという記述があります。また、慶長8年（1603年）に編纂された『日葡辞書』には、「Anagura」の項目があり、「地下または洞穴の中に作られた、穀物や食料を収める倉庫」と説明されています。これらのことから、江戸時代以前から穴蔵が普及していたと考えられます。

庶民の間では、明暦2年（1656年）に江戸本町2丁目の呉服商・和泉屋九左衛門が最初に穴蔵を造ったとされています。翌年の明暦の大火では、その穴蔵は無事だったと伝えられています。天保年間（1830年～1844年）には、京阪の富豪が金銀を蓄えるために穴蔵を造り、中小の商店にも普及しました。土蔵よりも安価に作れる上、火災にも強かったため、庶民の間に広く用いられました。江戸では、豪邸の裏手に土蔵とは別に穴蔵を造り、金銀を保管しました。一般的には、火災に備えて家財を安全に保管するために利用されました。穴蔵は用途に応じて規模が異なり、大きなものは建設や維持に莫大な費用がかかりました。

木造の穴蔵を作る職人は、一般的に穴蔵屋と呼ばれていました。江戸では霊岸島川口町に数軒の穴蔵屋がありましたが、京阪にはいませんでした。穴蔵の工事は、穴を掘る掘方人足、防水専門の左官を穴蔵屋が請け負って進められました。

明治時代以降、銀行制度の普及により財産を自宅に保管する必要がなくなったこと、火災保険や欧風の防火建築が導入されたことで火災の損害への不安が軽減されたことなどから、穴蔵はほとんど作られなくなりました。

構造

京阪では、壁面に切石を積んだ穴蔵が多く見られました。江戸では地下水位が高く防水が必要だったため、ヒバやカシワなどの木材を用いて船底を作る要領で造られました。時代が進むにつれて、スギやマツ、銅板なども使われるようになりました。

江戸では、上屋の下に穴を掘った半地下式や、上屋を設けた入口に階段をつけ、木の天井で補強した深さ3～4メートルの浅い素掘りの穴蔵が作られました。18世紀後半には、この形式は廃れ、垂直に掘った深い穴に梯子をかけて上り下りする形式に変化しました。緊急時には、開口部に蓋をした後、渋紙を敷き、上から防火用の砂をかけました。

城郭建築における穴蔵

城郭建築においては、穴蔵は地階に分類されます。櫓台、天守台、御殿など大型建物の地下に作られ、主に備蓄倉庫として使われました。天守には、天守台の内側をくりぬくようにして作られ、床が土や石畳で覆われた土間となっているものがあり、建物の出入り口を兼ねている場合もあります。井戸が作られていることもありましたが、現存しているのは松江城天守のもののみです。

作業場としての穴蔵

長野県茅野市の山間部には、穴倉という農閑期の冬に数軒の農家が共同で建てる、地面を一段掘り下げて茅葺き屋根をかけた竪穴建物の様な構造の建物で、藁細工などの冬仕事をする作業場がありました。2019年5月28日放送のBS日本「三宅裕司のふるさと探訪～こだわり田舎自慢～」で、唯一受け継がれている穴倉文化が紹介されました。蓼科笹類植物園の笹離宮では、笹葺き屋根による窖が再現されています。

脚注

参考文献

小沢詠美子『災害都市江戸と地下室』吉川弘文館〈歴史文化ライブラリー〉、1998年。ISBN 4642054332。

関連項目

地下室
江戸の火事
ダンジョン
* 氷室

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