空白の意匠

『空白の意匠』

松本清張が書いた短編小説『空白の意匠』は、1959年に発表され、同年の短編集『真贋の森』にも収録された作品です。この物語は、地方紙Q新聞の広告部長である植木欣作を主な人物として、強壮剤「ランキロン」の広告が引き起こす問題に焦点を当てています。

あらすじ

物語は、地方紙Q新聞の広告部門で起こる出来事を中心に描かれています。広告部長の植木欣作は、和同製薬が大力で宣伝している強壮剤「ランキロン」に関するある見出しを目にします。それは、同薬の中毒作用により患者が急死したという内容で、彼は強いショックを受けます。

しかし、編集局長の森野義三は、広告部門の介入は編集権の侵害だと憤慨し、状況は混沌としていきます。さらに、東京の広告代理店・弘進社の副課長、中田から不満の電話が寄せられ、Q新聞の広告量が半減する恐れが生じます。このため、新聞の広告欄には巨大な空白が生まれ、植木は焦りを感じます。

後に「ランキロン」の中毒作用の記事が誤報であることが判明するものの、広告代理店はQ新聞との関係を完全に断つかもしれないと警告します。この問題が深刻化する中、植木は専務の小林とともに弘進社の名倉忠一と直接面会し、関係修復のための交渉を行うことを決意します。

名倉がQ新聞に訪れることが決まり、会社全体が接待の準備に奔走します。名倉は到着後、機嫌が良さそうで、宴会でも笑顔を絶やしません。しかし、彼が帰京する際に、名倉は専務の耳にこっそりと話しかけ、物事が思わぬ方向に進展することを暗示させます。

エピソード

松本清張は、自身の創作にあたり、地方紙と広告代理店との微妙な関係に興味を持っていたと語っています。また、小説がテレビで映像化された際には、地方紙からの抗議がNHKに寄せられたというエピソードもあります。これは、広告代理店からの抗議が予想されていたものの、地方紙が意外にも強い立場にあることを示唆しています。著者としては、広告代理店に対する遠慮や、地方紙の強さについての杞憂から生じた現象であるとも述べています。この作品について、作家の宮部みゆきは、サラリーマンの世界を理解しない自分でも驚かされる要素があったと感想を寄せています。

テレビドラマ化

この小説は、1959年と1962年の2度にわたりテレビドラマとしても視覚化されています。1959年版はNHKの「テレビ劇場」にて放送され、西村晃が植木欣作役を演じました。キャストには伊藤雄之助や織田政雄などが名を連ね、脚色は大川久男が手掛けました。

1962年版は「松本清張シリーズ・黒の組曲」として、2回に分けて放送されました。主演は下條正巳で、他のキャストには斎藤美和や嵯峨善兵などが配役され、脚色は川崎九越が担当しました。

このように、『空白の意匠』は単なる短編小説にとどまらず、メディアを通じて新たな形でその魅力を伝えてきた作品です。

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