立蔵神社

立蔵神社（たちくらじんじゃ）

富山県富山市本宮に位置する立蔵神社は、その鎮座地である与四兵衛山を含む広大な境内を持つ神社です。現在では、かつての隆盛から見て規模は小さくなりましたが、かつて立山信仰において極めて重要な位置を占め、「雄山神社の本宮」と称されるほどの由緒ある古社として知られています。

由緒と歴史

立蔵神社の創建に関する伝承は複数存在します。社に伝わる由緒によれば、その始まりは今から千年以上の昔、701年（大宝元年）にさかのぼります。立山を開山したとされる伝説的な人物、佐伯有頼が、人々の五穀豊穣を願って、この地の「字立蔵洞」と呼ばれる場所に保食神（うけもちのかみ）を祀ったことが起源とされています。

その後、714年（和銅7年）には、この社地が佐伯頼本に譲られ、地名にちなんで「立蔵社」と称されるようになりました。以来、この地は立山の本宮として、代々信仰の中心地として受け継がれてきたと伝えられています。

しかし、これとは別に、立山開山に関わるもう一つの有力な人物、佐伯有頼の師であった薬勢上人が立蔵神社を建立したとする伝承も存在します。この伝承によれば、立蔵神社は立山への主要な道筋に位置し、かつては峰に近い「説法ヶ原」に鎮座していたともいわれ、庶民が立山を遠くから拝み、祈りを捧げるための重要な祭場、すなわち「本宮」としての役割を担っていました。このため、芦峅寺に位置する中宮（祈願殿）や、岩峅寺の前立社壇と並び称される「立山三宮」の一つとして、立山信仰体系の中で非常に格式の高い存在であったと考えられています。

公卿石（きんないし）

立蔵神社の境内、特に本宮地区には、かつて「公卿石（きんないし）」と呼ばれる巨大な石が存在しました。この石は、神社の裏手にそびえる与四兵衛山（または吉部山とも称されます）の麓にあった、さらに大きな巨石の一部を切り出し、立蔵社に奉納されたものと伝えられています。

公卿石の最大の特徴は、その表面に複数の線刻が施されている点です。これらの線刻は、まるで碁盤のような規則正しい模様を形成しており、符号のような印象を与えます。そのため、この石は「碁盤石」という別名でも広く知られています。

地質学的な調査によれば、この巨石は安山岩でできており、与四兵衛山中に点在する数多くの巨石群の一つであることが確認されています。現在、石の一部は地面に埋没していますが、地上に見えている部分だけでも、長軸が約1.86メートル、短軸が約1.45メートルもの大きさがあります。さらに、石の南端部分には、人為的な加工を示す6箇所の電動ドリルによるものと思われる割り取り跡が明確に残されています。この痕跡から、本来の公卿石は現在見られるものよりもはるかに巨大であったことがうかがえます。

この公卿石に刻まれた線刻の意味については、いくつかの解釈が存在します。一説には、芦峅寺の集落から与四兵衛山を望むと、その山容が神が宿るにふさわしい、厳かで神聖な姿に見えることから、与四兵衛山やその周辺に点在する巨石そのものが、古代の人々にとって信仰の対象であったと考えられています。巨石は神の魂を宿す「形代（かたしろ）」や、神が降臨するための「依代（よりしろ）」として崇められ、その霊的な力をさらに高めるために、呪術的な意味合いを持つゲーム盤のような文様が表面に刻まれたのではないか、と推測されています。

アクセス

立蔵神社へのアクセスは、富山地方鉄道立山線の本宮駅が最寄りとなります。駅から徒歩約3分で到着可能で、距離にしておよそ250メートル程度です。

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