与四兵衛山

与四兵衛山（よしべえやま）

富山県富山市本宮にそびえる与四兵衛山は、標高623メートルを測る山です。かつては吉部山（よしべやま）とも呼ばれていました。常願寺川の渓谷に面し、独特の地形と歴史を持つこの山は、富山地方鉄道立山線の北側中腹を走るエリアに位置しています。

地形と概要

与四兵衛山は全体として東西に細長い形状をしています。その北側は常願寺川に向かって急峻な崖となって切れ落ちており、対照的に南側には粟巣野台地が広がっています。周囲を河川によって侵食され、島状に取り残されたような地形は、地理学的に「環流丘陵」として特徴づけられます。この山容は、見る場所によって印象が大きく変わります。粟巣野側から眺めると、なだらかな鈍角三角形に見える一方、芦峅寺の集落からは鋭角的な三角形として捉えられます。稜線上には、自然にできた小さな岩屋や岩壁が見られます。山頂部は主に杉林に覆われていますが、木々の隙間からは雄大な立山連峰を望むことができます。

形成と地質

この山の地質は、周囲の環境や南側の粟巣野台地とは異なる特異性を持っています。与四兵衛山は、約2万年前から活動したとされる立山火山の噴出物が、当時の常願寺川の谷間を埋め立ててできた溶岩台地が、その後の河川による激しい侵食作用によって削り取られ、馬の背のような尾根状に孤立して残されたものです。そのため、山体を構成するのは火山岩である安山岩です。この安山岩質の地質は、立山連峰の弥陀ヶ原一帯の地質と共通しています。

植生

地質の特徴は植生にも影響を与えています。溶岩台地がもととなっているため、土壌は現在も栄養分が乏しい酸性土壌（ポドゾル）の傾向が見られます。このような土壌環境に適応した植生として、立山杉の林や、まばらなブナの木々が見られる混交林が形成されています。

山岳信仰の歴史

与四兵衛山は、古くから立山信仰において非常に重要な意味を持つ聖地とされてきました。特に、芦峅寺から見た鋭利な山容や、山頂から立山連峰を一望できる眺望は、信仰の対象となるにふさわしい景観として捉えられたと考えられています。立山開山よりさらに古い時代から、この山に盤を設けて祭祀が行われていたと伝わっており、立山信仰における最も初期の聖地の一つであったとされています。山の北側中腹には安山岩の巨石が点在しており、その中の一つは富山市本宮にある立蔵神社の境内に奉納されています。この石は「公卿石」と呼ばれ、碁盤のような線刻が多数施されています。また、山の麓にはかつて雄山神社の本宮が置かれていたという説もあります。こうした信仰の歴史を現代に伝えるものとして、2000年7月には山頂に「立山本宮」と刻まれた石碑が建立されました。

登山

与四兵衛山には整備された登山道はありません。そのため、主に残雪期に登られることが多い山ですが、尾根上の藪は比較的薄いため、夏期にも登ることは可能です。主なアクセスルートとしては、立山国際ホテルの裏手にある林道を利用する経路と、山の東側から尾根筋を伝って登る経路があります。

参考文献

『富山県山名録』（桂書房）
『富山の百山』（北日本新聞社）

関連項目

立山連峰
富山市
立山信仰

外部リンク

本宮立蔵社公卿石の線刻符号

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