笑福亭小松

笑福亭小松氏は、昭和から平成にかけて活躍した元落語家です。本名を夏東雁（か とうがん）、韓国籍を持ち、滋賀県草津市に生まれました。1957年2月22日にこの世に生を受け、波乱に満ちた生涯を送り、2014年8月2日に57歳で急逝しました。

中学校を卒業後、上方落語界を代表する存在であった6代目笑福亭松鶴師匠の10番目の弟子として入門しました。しかし、修行の途中で一度師匠から破門され、活動の場を東京へ移します。東京では、漫才師のコロムビアトップ氏に師事し、青空一門の漫才師として青空ピン児氏とコンビ「青空ピン児・ポン児」を結成しました。このコンビは実力を認められ、1979年にNHK新人漫才コンクールで最優秀賞を受賞するなど、漫才師としても成功を収めました。

漫才コンビ解消後、大阪に戻り再び上方落語の世界へ戻ります。島田洋七氏の弟分となった後に「コアラ」と改名（同名のタレントとは関係ありません）し、その後、笑福亭枝雁、笑福亭枝鴈と改名を経て、最終的に笑福亭小松を名乗るようになりました。入門当初から、兄弟子である笑福亭鶴瓶師匠には特に目をかけられ、可愛がられたといいます。師匠である松鶴師匠から最初の破門を言い渡された際、師匠は他の弟子に対するように罵倒するのではなく、逆に小松氏に頭を下げ、「頼むから辞めておくれ」と懇願したという逸話は、師弟間の複雑な関係性をうかがわせます。

1997年には進行性胃がんを患い、医師から余命半年を宣告されるという厳しい状況に直面しますが、手術を受けて奇跡的に回復しました。この病気克服という壮絶な経験は、その後の人生に大きな影響を与えました。1998年には、回復の証として、そして自身の経験を伝えるため、130日間という長期間をかけて鹿児島から北海道まで日本列島を徒歩で縦断する偉業を成し遂げました。この約3000kmに及ぶ旅は、多くのメディアで取り上げられ、後に映画『勇気の3000キロ』のモデルともなりました。旅の途中やその後、各地で「がん克服落語会」を開催し、チャリティー活動にも積極的に取り組みました。落語家としても実力を発揮し、2000年には自身の創作落語「小松のらくだ」の口演により、文化庁芸術祭演芸部門優秀賞を受賞しています。

しかし、その後の人生は順風満帆とは言えず、波乱に満ちたものとなりました。1996年に覚醒剤取締法違反の容疑で逮捕されて以降、2007年、そして2009年と計3度にわたり同容疑で逮捕され、実刑判決も受けました。こうした薬物問題の影響により、2006年には長年所属していた松竹芸能との契約を解除され、さらに上方落語協会の系図からも名前が外されるという、事実上の落語家廃業に追い込まれました。

落語家を廃業した後も、表現活動への意欲は失われず、2009年頃には自費出版のCDを制作・販売するなど、歌手として活動していることが報じられました。そして、2013年12月には、快楽亭ブラック氏との二人会で再び高座に上がります。大須演芸場で行われたこの復活公演は満員札止めとなるほどの盛況で、多くのファンが彼の健在ぶりを喜びました。しかし、この舞台への復帰も長くは続かず、2014年8月2日、生まれ故郷である滋賀県草津市の自宅にて、急性心筋梗塞により急逝しました。享年57歳という若さでした。

生涯を通じて、がん克服や日本列島徒歩縦断といった自身の経験を基にした著作を複数発表しています。代表作には、『日本列島徒歩縦断!がん克服落語会』、『吾輩はがんである』、『前略がん患者さま:ベテラン患者より、元気の出る噺を一席』などがあります。

笑福亭小松氏の人生は、入門、破門、漫才での成功、落語への復帰、大病からの生還と挑戦、そして薬物問題による転落と、まさに激動の連続でした。晩年に見せた舞台への復帰が、そのまま最期の輝きとなったことは、多くの関係者やファンにとって惜しまれる出来事でした。

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