笠間電気

笠間電気株式会社

笠間電気株式会社（かさまでんき）は、明治後期から大正期にかけて、現在の茨城県笠間市を中心とした西茨城郡地域で電気事業を展開していた企業です。

そのルーツは、1910年（明治43年）に設立・開業した笠間電灯所に遡ります。これは、地元の煙草製造販売業者であった田山覚之助が、自身の経営する製材所から出る廃材を燃料とする火力発電で電灯供給を計画したことに始まります。当初は、予想を上回る数の電灯予約があり、供給能力を超えるほどの反響がありました。笠間電灯所は、衆議院議員で電気事業にも関わっていた吉村鉄之助の支援を受けて正式に開業。これは茨城県内で茨城電気株式会社に次いで2番目の電気事業者開業であり、初年度の契約灯数は520灯でした。

開業後、電気の需要は増加の一途をたどり、事業のさらなる拡大を目指して株式会社化が図られることになります。1912年（明治45年）3月14日、東京にて発起人総会が開催され、吉村が所有していた電気事業に関する特許や設備、そして田山の製材所設備などを買収して事業基盤を固める方針が決定されました。資本金は3万円（600株）とし、地元と東京の発起人・有志が引き受けることとなりました。

創立総会を経て、1912年（明治45年）6月10日に逓信大臣より認可を受け、正式に笠間電気株式会社が発足しました。

しかし、当時の電灯料金は一般家庭にとって高額であり、開業当初は依然としてランプが主流でした。1914年（大正3年）11月の料金規定によれば、10燭光のタングステン電球で月額55銭に加え、電気器具の使用料や工事費などもかかりました。それでも、経済の発展に伴い電気の需要は増え続け、これに対応するため笠間発電所の設備は、効率が悪かった従来の火力発電設備からサクションガス力発電へと切り替えられました。

笠間電気の供給区域である西茨城郡には、他にも電気事業者が存在しました。西那珂村（現・桜川市）には西茨城電気株式会社が、岩間村（現・笠間市）には岩間電気株式会社があり、それぞれ周辺地域への電力供給を行っていました。西茨城電気は1914年（大正3年）から、岩間電気は1916年（大正5年）から営業を開始しています。

笠間電気は事業拡大のため、これらの周辺事業者を吸収・譲受しました。1916年（大正5年）3月27日には西茨城電気を合併し、1917年（大正6年）4月23日には岩間電気の事業を譲り受けました。これらの統合により、供給区域は西茨城郡内の広範囲に拡大し、契約灯数も4,000灯を超えるまでに増加しました。供給区域の拡大と需要増加に伴い、自社発電だけでは電力が不足するようになったため、下野電力株式会社からの受電を開始して供給力を確保しました。

大正時代後期になると、国策として電気事業の統合が推奨されるようになり、茨城県内でもその動きが活発化します。県内の有力事業者であった茨城電気が周辺会社の統合を進める中で、笠間電気も合併候補となりました。1921年（大正10年）7月、笠間電気は茨城電気との合併を決議し仮契約を締結。同年9月1日には茨城電気と多賀電気の合併により茨城電力株式会社が新設され、笠間電気は1922年（大正11年）1月1日付でこの茨城電力に合併されました。笠間電気の社長であった木村信義は、茨城電力の取締役に就任しています。

笠間電気（前身の笠間電灯所時代を含む）が電力供給を行った主な区域は、設立当初の笠間町から、西茨城電気・岩間電気との合併などを経て、最終的に西茨城郡内の9町村（笠間町、北山内村、西那珂村、北那珂村、東那珂村、西山内村、宍戸町、岩間村、南山内村）にまで拡大しました。

所有していた発電所は笠間発電所と岩間発電所です。笠間発電所は笠間電灯所時代の1910年（明治43年）に建設された当初は火力発電でしたが、後にサクションガス力発電に切り替えられました。しかし、需要増には追いつかず、1915年（大正4年）以降は電力供給を受電に頼るようになり、廃止時期は不明です。岩間発電所は岩間電気が所有していた汽力発電所で、笠間電気が岩間電気を吸収した1917年（大正6年）以降に管理下に入りましたが、こちらも使用開始・廃止時期は不明です。

このように、笠間電気は短期間のうちに周辺事業者を統合し、供給区域を広げながら地域に電力を供給しましたが、電気事業統合の流れの中で茨城電力に吸収され、その歴史に幕を閉じました。

もう一度検索