第一次ミトリダテス戦争

第一次ミトリダテス戦争：ポントスとローマの衝突

第一次ミトリダテス戦争は、紀元前88年から紀元前85年にかけて、ポントス王国と共和政ローマの間で勃発した戦争であり、3度にわたるミトリダテス戦争の幕開けを告げるものでした。この戦争は、小アジアにおける両国の勢力争いを背景に、激しい戦闘と政治的駆け引きが繰り広げられました。

開戦までの経緯

ポントス王国は、もともとセレウコス朝の支配下にある独立国でしたが、セレウコス朝の衰退とともにローマの属国のような扱いを受けるようになりました。ミトリダテス5世の時代にはカッパドキアを併合するなど勢力を拡大しましたが、息子のミトリダテス6世の時代になると、ローマとの関係が悪化していきます。

ローマは紀元前92年、カッパドキアを亡命者のアリオバルザネス1世に返還させ、ミトリダテス6世もこれを受け入れざるを得ませんでした。しかし、ミトリダテス6世は隣国のビテュニアで王位を巡る内紛に乗じて介入し、カッパドキアでも反乱を支援するなど、ローマの意向を無視する行動を繰り返しました。

こうした状況に対し、ローマはマニウス・アクィッリウスを長とする使節団を派遣し、追放された王たちの復位を図ります。マニウスは、アシア属州総督ルキウス・カッシウスが率いるローマ軍と、現地で徴収した兵力を用いて目的を達成しました。しかし、マニウスとカッシウスはミトリダテス6世に対する戦争を望み、復帰した王たちにポントス攻撃を唆しました。ビテュニア王ニコメデス4世はこれに応じ、ポントスに侵攻し略奪を行いますが、ミトリダテス6世はあくまで自制し、マニウスに抗議の使者を送りました。

しかし、抗議は無視され、ミトリダテス6世はついに反撃を決意。アリアラテス9世をカッパドキアに送り込み占領しました。当時のローマ法では、宣戦布告は元老院の権限でしたが、マニウスらは独断でミトリダテスに対する戦争を開始したのです。

戦争の経過

小アジア戦役

紀元前88年、第一次ミトリダテス戦争が勃発。ローマは、少数のローマ軍に加え、現地で徴収した兵力を合わせて大軍を組織し、ルキウス・カッシウス、マニウス・アクィッリウス、キントゥス・オッピウスがそれぞれ率いる軍を四方面からポントスとカッパドキアへ進軍させました。

ミトリダテス6世は、分進するローマ軍を各個撃破する戦略を取りました。まず、アムニアス川の戦いでニコメデス4世率いるビテュニア軍を打ち破り、国境を越えて逃げる敵を追撃。マニウスが守るプロトパキウム要塞を短時間で攻略し、カッシウスの軍も撃破しました。ローマの敗将たちは散り散りになり、ミトリダテス6世はビテュニア全域を支配下に置きました。

ミトリダテス6世は、捕虜に帰国の費用を与えて解放し、孤立して降伏したオッピウスを丁重に扱いましたが、マニウスは処刑しました。さらに進軍を続け、アシア属州などエーゲ海沿岸の小アジア全域を制圧しました。支配を確立した後、ミトリダテス6世は新しい支配地域の全土で、ローマ人とイタリア人を皆殺しにする命令を出しました。この命令により、8万人から10万人以上もの人々が虐殺されたと言われています。

しかし、ミトリダテス6世が艦隊を率いてロドス島の攻略を試みた際には、嵐による船団の被害やロドス海軍の抵抗により、攻略は失敗に終わりました。

ギリシャ戦役

紀元前87年、ミトリダテス6世はアルケラオスに一軍を与えてギリシャに派遣。アテナイ、ラケダイモン（スパルタ）、ボイオティアなどがこれに呼応し、ミトリダテス6世の味方につきました。ポントス軍の別働隊はエウボイアを攻略し、マケドニアに侵攻したミトリダテス6世の息子アルカティアスは全土を制圧しましたが、その後病死しました。

一方、ローマはルキウス・コルネリウス・スッラをアシア総督に任命し、5個軍団を率いてギリシャに派遣しました。スッラの出現により、テーバイなどボイオティアの大半はローマに寝返り、アルケラオスはアテナイの外港ピレウスに立て篭もりました。

ピレウス包囲戦は激戦となり、ローマ軍はピレウス攻略を諦め、飢餓で弱っていたアテナイの城壁を突破しました。アルケラオスは内城に引き下がり、次いで海から撤退しました。アルケラオスはボイオティアに回り、残存兵力を集結させましたが、紀元前86年のカイロネイアの戦いでスッラに大敗。さらに紀元前85年のオルコメノスの戦いでも敗北し、コルキスに撤退しました。

ダルダノスの和約

相次ぐ敗北を聞いたミトリダテス6世は、恐怖政治によって沿岸のギリシャ人都市を支配しようとしましたが、かえって反乱を招きました。

一方、ローマでは、ガイウス・マリウスが権力を握りスッラを公敵と認定。ルキウス・ウァレリウス・フラックスが2個軍団を率いて遠征に乗り出しましたが、フラックスとレガトゥス（総督代理）ガイウス・フラウィウス・フィンブリアの間で争いが起こり、フィンブリアがフラックスを殺害して軍の指揮権を奪いました。フィンブリアは小アジアに渡り、アシア属州の奪回に着手しました。

ミトリダテス6世は、スッラとの和平交渉を開始し、紀元前84年にダルダノスの和約を締結しました。その主な内容は以下の通りです。

ミトリダテス6世は占領地（カッパドキア、ビテュニア、フリギア、パフラゴニア）を全て放棄し、カッパドキア王とビテュニア王の元の地位への復帰を認める。
ミトリダテス6世は賠償金として2,000タラントをローマに支払う。
* ポントス海軍の軍船を全てローマに引き渡す。

その後、スッラはフィンブリアと対陣し、軍勢の引渡しを求めました。フィンブリアは抗戦を試みましたが、脱走兵が相次ぎ、降伏して自殺しました。しかし、ミトリダテス6世はカッパドキアの一部を領有したままだったため、和約の翌年に第二次ミトリダテス戦争が勃発することになります。

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