第1師管

第1師管（だいいちしかん）は、1873年（明治6年）から1940年（昭和15年）にかけて存在した大日本帝国陸軍の管区を指します。国内をいくつかの地域に分割して設定された師管の一つであり、その区域は時代によって変化しましたが、常に日本の首都である東京とその周辺地域を中心に置かれていました。制度としても変遷があり、1888年（明治21年）以前は鎮台制における師管、それ以降は師団制に基づく師管として位置づけられました。1940年には東京師管と改称され、独立した呼称としては廃止されました。

鎮台制時代の第1師管

成立と初期の区域 (1873年 - 1885年)

師管が初めて設置されたのは、鎮台配置から2年後の1873年7月19日の鎮台条例改定によるものです。全国に置かれた6つの軍管のうち、東京鎮台が管轄する第1軍管の下に、第1師管、第2師管、第3師管が設けられました。第1師管は東京に主要な営所を置き、小田原、静岡、甲府にも分営が定められました。その所在地から東京師管とも呼ばれています。

当初の鎮台条例に先立つ同年1月の「六管鎮台表」では、東京鎮台東京営所の管轄として東京府、神奈川県、埼玉県、入間県、足柄県、静岡県、山梨県の1府6県が定められており、これが後の第1師管の基礎となりました。1873年10月の営所配置改定では、武蔵、相模、甲斐、伊豆、駿河の各国が第1師管の区域とされ、これは前述の1府6県の範囲とほぼ一致します。現在の都道府県に当てはめると、東京都、埼玉県、神奈川県、山梨県、そして静岡県の中部・東部に相当する広がりでした。

区域変更 (1885年 - 1888年)

1885年5月18日の太政官第21号による鎮台条例改正で、軍管および師管の境界線が変更されました。新しい第1師管は、武蔵国の大部分、相模国、甲斐国、伊豆国に加え、上野国と信濃国の北半分を含むことになりました。武蔵国では、東部の特定の区や郡が第2師管に移管され、信濃国では南部の郡が第5師管に属することになりました。現在の都道府県では、東京都と埼玉県の東端を除いた大部分、神奈川県、山梨県、群馬県の全域、そして長野県の北半分という範囲になりました。主要な営所は東京で変わりませんでしたが、分営は高崎のみとなりました。

この時期の第1師管には、東京の営所に歩兵第1連隊と歩兵第3連隊、高崎の分営に歩兵第15連隊が配置された他、騎兵、砲兵、工兵、輜重兵といった兵種部隊も置かれ、東京鎮台の兵力の中核を担いました。

師団制への移行 (1888年)

1888年、鎮台制が廃止され、より近代的な師団制が導入されることになりました。これに伴い、陸軍の管区制度も再編成され、従来の軍管・師管の2階層から、師管・旅管・大隊区の3階層へと変更されました。地域区分においては、従前の軍管が新しい師管に、従前の師管が新しい旅管に、それぞれ同じ番号で引き継がれることになりました。この原則に基づき、旧第1師管は新しい第1旅管となり、旧第1軍管が新しい第1師管として再出発しました。

新しい第1旅管は、旧第1師管の区域を概ね踏襲しましたが、東部では一部地域が第2旅管に含まれる形で縮小し、一方で長野県全域が範囲に含まれるなど、西部では若干の拡大が見られました。

師団制時代の第1師管

師団制師管の役割

師団制における師管は、その番号と同じ師団（この場合は第1師団）の徴兵を担当する重要な役割を担いました。原則として、第1師管に戸籍を持つ男子が徴兵され、第1師団に配属されました。ただし、近衛師団や植民地に常駐する部隊など、一部例外的に他の師管から兵士を送る場合もありました。また、師管は国内の反乱鎮圧や外国からの侵攻に備え、管轄する師団が出動する際の担任地域でもありました。第1師管は首都である東京を含むため、特に首都防衛の任務を負っていました。

初期の区域 (1888年 - 1896年)

師団制への移行当初の第1師管は、関東地方全体と山梨県、長野県をその区域としました。各師管は通常、2つの旅管と4つの大隊区で構成され、重要な島嶼部には警備隊区が計画されることがありました。第1師管には小笠原島警備隊区の設置が予定されましたが、実際に発足することはありませんでした。

当時の管区構成は以下の通りです。

第1旅管
麻布大隊区
横浜大隊区
高崎大隊区
長野大隊区
小笠原島警備隊区（計画のみ）
第2旅管
佐倉大隊区
水戸大隊区
本郷大隊区
* 宇都宮大隊区

区域縮小と拡大 (1896年 - 1907年)

1896年、陸軍の師団数をほぼ倍増させる軍拡が実施され、これに合わせて陸軍管区表も改正されました（明治29年勅令第82号）。この改正では、従来の師管を分割して新たな師管を多数設けました。区域変更の混乱を最小限に抑えるため、従来の旅管を新しい師管に、大隊区を連隊区に「格上げ」する手法が取られました。この結果、第1師管は以前の第1旅管の範囲に縮小し、かつての第2旅管の区域には新たに近衛師管が設置されました。

1899年（明治32年）、近衛師管が廃止されたことに伴い、その区域は再び第1師管に統合されました（明治32年勅令第53号）。これにより、第1師管は4つの連隊の定員を超える徴兵対象者を持つことになり、余剰人員は近衛師団の特定兵科や師団に属さない部隊などに充当されました。

1903年（明治36年）には、旅管制度が再び導入されました（明治36年勅令第13号）。このとき、第1師管にはそれぞれ4つの連隊区を持つ2つの旅管が置かれ、これが日露戦争時の管区体制となりました。

区域の定着 (1907年 - 1940年)

1907年、さらなる師団増設に伴い、陸軍管区表が改正され（明治40年軍令陸第3号）、関東地方北部に第14師管が新設されました。この変更により、第1師管は群馬、栃木、茨城3県を第14師管に、長野県を新設の第13師管・第15師管にそれぞれ移管し、関東地方南部を主とする区域に再編成されました。具体的な範囲は、東京都、神奈川県、千葉県の全域に加え、埼玉県の東部4郡（現在のさいたま市や草加市などの地域）となりました。この再編成により、他の師管に比べて連隊区数が倍である状態は解消されました。

1920年（大正9年）には、神奈川県西部の足柄上郡と足柄下郡が第15師管に移管されました（大正9年軍令陸第10号）。

1924年（大正13年）には旅管が廃止され、師管の直下に連隊区が置かれる制度となりましたが、この際の師管と連隊区の境界変更はありませんでした（大正13年軍令陸第第4号）。

1930年（昭和5年）には、佐倉連隊区が千葉連隊区に改称されました（昭和5年軍令陸第5号）。これにより、第1師管は麻布、甲府、本郷、千葉の各連隊区を含む構成となりました。

東京 師管への改称と廃止 (1940年 - 1945年)

1940年8月1日、昭和15年軍令陸第20号により、全国の師管はその番号を廃止し、所在地の地名を冠する形に名称が変更されました。これにより、第1師管は「東京師管」と改称され、その名称での歴史を終えました。連隊区などの管区構成は一時的に維持されましたが、その後の変更を経て、最終的には1945年に東京師管区へと改編されました。しかし、同年8月の終戦に伴い、師管区としての実質的な機能は失われ、翌1946年には法令上も正式に廃止されました。

第1師管は、創設から消滅まで一貫して日本の政治的・地理的中心である東京を管轄し、時代の要請に応じてその区域や内部構成を変化させながら、徴兵や地域防衛といった陸軍の根幹をなす業務を担いました。

もう一度検索