等呼

等呼（とうこ）とは

等呼とは、中国の伝統的な音韻学である等韻学において用いられる術語です。具体的には、等韻図という音韻図において、音を分類するための縦の四つの段を指します。等韻図は、まず四声（音の高低）によって四段に分けられ、さらに各段が縦に四つに区分されます。この縦の区分が等呼であり、上から順に一等、二等、三等、四等と名付けられています。

等呼の意味

等韻図における各等呼は、実際に配置されている漢字の音韻的な特徴から、以下のように解釈されます。

一等・二等: これらは直音（介音 -i- を持たない音）です。直音のなかでも、声母（語頭の子音）が歯頭音（/ts/ など）や舌頭音（/t/ など）と結合するものを一等、正歯音（/tʃ/ など）や舌上音（/tʲ/ など）と結合するものを二等に分類します。
三等・四等: これらは拗音（介音 -i- を持つ音）です。原則として三等に配置されますが、重紐と呼ばれる、口蓋性の強い介音（-i-）と弱い介音（-ï-）の区別がある場合、前者を四等、後者を三等に記します。また、舌音では、舌頭音は四等に、舌上音は三等に配置されます。
歯音: 歯音は複雑で、歯頭音は四等、正歯音（章母 /tɕ/ など）は三等、荘母 /tʃ/ などは二等に配置されます。このため、二等に書かれた字が直音か拗音かは図だけでは判断が難しい場合があります。
喩母: 喩母は実際には二つの異なる声母（云母 /ɦ/ と羊母 /j/）から構成されますが、図上では云母が三等、羊母が四等に配置されます。
幽韻: 幽韻は四等に記されます。

このように、等位の決定には声母、介母、主母音が複雑に関わり、体系としては混沌とした印象を受けます。等韻図の作成者がなぜこのような四段区分を採用したのかは定かではありません。しかし、十六摂をそれぞれ開合で分けた図を作成する際、当時の音韻体系では四等に分けることで図を一枚に収めることができた可能性が考えられます。

近年、石井望氏による新説では、等次を字輪曼荼羅として解釈しています。この説では、一等の「ア」を根本音として、内側に回転してイ、ウに巡るものが三等、外側に回転してエ、オに巡るものを二等とします。これは、最古の和字五十音図が「イオアエウ」と並ぶことと対応しており、一等のアを中心に両端が三等のイ、ウ、外側が二等のエ、オとなる点を指摘しています。この解釈は、漢字音を密教文化の中で捉えようとする視点に基づいています。

現代での用法

現代の中古音研究では、等韻図における各等の呼称が、そのまま音韻の分類として用いられています。

一等韻・二等韻: 等韻図で一等に書かれる韻を一等韻、二等に書かれる韻を二等韻と呼びます。同じ摂（音のグループ）で同じ開合（口の開き方）を持つ一等韻が複数ある場合、それらを一等重韻と呼びます。同様に、二等韻が複数ある場合は二等重韻と呼びます。
直音四等韻（仮四等韻）: 『切韻』では直音であるにも関わらず、等韻図で四等に書かれている韻があります。これらは、等韻図が作成された時代には直音から拗音に変化していたと考えられ、「直音四等韻」または「仮四等韻」と呼ばれます。
重紐三等・重紐四等: 重紐（口蓋性の異なる介音を持つ音）については、等韻図で三等に書かれるものを重紐三等、四等に書かれるものを重紐四等と呼びます。
正歯音・喩母の分類: 正歯音や喩母は『切韻』で異なる音素に分かれています。これを区別するために、「正歯音三等」「正歯音四等」、「喩母三等」「喩母四等」のように呼ぶことがあります。

四等の消滅

その後の音韻変化により、四等に分ける意義が薄れ、開合各二等のモデルが模索されるようになりました。明代の『字彙』に付された韻図「韻法直図」では十呼という新たな分類が用いられましたが、同じく『字彙』の付録にある李世沢の「韻法横図」では、開口呼、斉歯呼、合口呼、撮口呼、混呼の五呼に整理されました。さらに清代に入り、潘耒の『類音』において、開口呼、斉歯呼、合口呼、撮口呼の四呼による分類が行われ、これが現代中国語学でも使用されています。

まとめ

等呼は、中国の伝統的な音韻学における複雑で重要な概念であり、当時の音韻体系を理解するための手がかりとなります。現代の研究においても、中古音の分析に不可欠な要素です。

関連項目

四呼
* 介音

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