筑波山梅林

筑波山梅林（つくばさんばいりん）は、茨城県つくば市のシンボルである筑波山の南斜面、標高200メートルから270メートル付近に位置する、つくば市が管理運営する梅の名所です。1966年（昭和41年）に、筑波山地域の観光振興策の一環として整備されました。

梅林の景観と梅の特徴

約4.5ヘクタールに及ぶ広大な敷地には、白梅800本、紅梅200本を含む約30品種、およそ1,000本の梅の木が植栽されています。早咲きの品種は例年1月下旬には見頃を迎え始め、最盛期には山肌を彩る満開の梅と、筑波山に特徴的な巨大な岩石が織りなす、ここでしか見ることのできない独自の風景が広がります。晴れた日には、遠方に富士山の優美な姿や、近代的な東京スカイツリーを望むこともでき、視界いっぱいに広がる関東平野の眺望を楽しむことができます。

筑波山梅林の梅の木には、いくつかの特徴が見られます。まず、幹の表面にはウメノキゴケなどの地衣類が付着しており、自然との調和を感じさせます。また、枝ぶりが地面を這うように低いことも特徴の一つです。これは、つくば市が毎年11月から1月にかけて行う剪定作業によるもので、横方向への枝の伸長を促すことで、独特な樹形を維持しています。剪定によって発生した枝は細かく砕かれ、木の根元に敷かれることで資源として再利用されています。さらに、筑波山梅まつりの期間中には、梅林で収穫された梅を加工した梅酒や梅干しなども販売され、訪れる人々に親しまれています。

豊かな自然環境

梅林内には梅だけでなく、多様な植物が共生しています。ヤマザクラやツツジ、アジサイなどが多く植えられているほか、ハハコグサ、ウラシマソウ、ニリンソウ、様々な種類のスミレ（スミレ、タチツボスミレ）、キンポウゲ、キランソウといった野草類も随所に見られ、四季折々の自然の変化を楽しむことができます。

筑波山の地質も梅林の景観に大きな影響を与えています。筑波山の頂上付近は約7,500万年前の斑れい岩から、中腹は約6,000万年前の花崗岩から成り立っています。梅林が広がるエリアには、特に土石流によって運ばれ堆積した斑れい岩の大きな塊が多く見られます。現在の梅林は、第二次世界大戦後、このような斑れい岩や土砂が堆積した山麓の斜面に、人の手によって梅の木が植えられたことで形成されました。

梅林から道路沿いに少し歩くと、筑波山の基盤岩である花崗岩盤が露出している場所があります。この岩盤の中には、先に固まった花崗岩の割れ目に、残りのマグマが貫入してできた白い岩脈（ペグマタイト）が見られます。また、風化が進み、表面がボロボロになった真砂（まさ）と化した花崗岩盤も観察でき、筑波山が長い年月をかけて形成されてきた地質的な歴史を垣間見ることができます。

沿革と再生プロジェクト

筑波山梅林は1966年に開設され、1974年には第1回筑波山梅まつりが開催されるなど、次第に観光地としての歩みを進めました。しかし、1970年頃に梅の実生産目的で造成されたものの、後に人手不足などから管理が行き届かなくなり、放置される時期がありました。その状況を改善し、梅林の魅力を再び引き出すために、2000年（平成12年）に「筑波山梅林再生プロジェクト」がスタートしました。

このプロジェクトは、眺望の良さや独特な地形、筑波山の岩石とのコントラストといった、水戸市の偕楽園とは異なる筑波山梅林独自の価値と、2005年のつくばエクスプレス開通による集客力の向上を見込んで、当時のつくば市長の依頼により筑波大学と連携して進められました。当初4年間での再生を目指し、梅林内の樹木の状態調査から始まり、再生のための伐採や剪定といった大規模な作業が実施されました。当初3,000本とも言われた梅の木は、詳細な調査の結果約1,300本と判明し、全て診断した上で500本が間伐され、800本が残されました。伐採された木々はウッドチップとして園路などに再利用されました。

およそ30年にわたり手入れが行き届かなかった梅林の再生は容易ではありませんでしたが、2000年から2005年までの5年間、継続的に剪定などの作業が進められました。その努力の結果、眺望は格段に改善され、これまで木々に隠れていた筑波山の特徴である巨岩も姿を現しました。また、梅の木自体の生命力も回復し、新しい芽吹きが盛んになり、実をつける姿も見られるようになりました。樹体も適切な大きさに整えられました。このプロジェクトでは、筑波大学が関連施設の整備計画も担当しました。施設の整備が完了する頃には、梅の花の質や量も向上し、つくばエクスプレスの開通も後押しとなり、来園者が増加し始めました。

2000年から2006年までの6年間で、再生プロジェクトには1億2000万円が投資されました。再生の成果とつくばエクスプレス効果により、2006年頃からは観光バスツアーが増加し、来園者が急増しました。これにより、無料だった市営駐車場の有料化が可能となり、年間約3,000万円の収入が得られるようになったことで、投資額を回収することができました。この成功を受け、2012年（平成24年）からは梅林の施設管理がつくば市からつくば市観光協会へと移管されました。

主な施設

梅林内には、来園者が快適に過ごせるよういくつかの施設が整備されています。

四阿（あずまや）: つくばの里山を象徴する茅葺きの木造展望台です。天気の良い日には、新宿の高層ビル群や富士山まで見渡せます。
展望台: 梅林の中腹にあり、ベンチが設置されています。関東平野の広大な眺めを楽しみながら休憩できます。
木道: 四阿までの主要な園路は木道として整備されており、車椅子での利用も可能です。
筑波山おもてなし館: 梅林内に位置する休憩施設です。館内のテラスからは、目の前に広がる梅林をゆっくりと眺めることができます。開館時間は時期によって変動します。

行事とアクセス

春には、筑波山梅林を会場とした筑波山梅まつりが開催され、多くの観光客で賑わいます。

交通アクセスは、首都圏新都市鉄道つくばエクスプレスの「つくば駅」で下車し、筑波山シャトルバスに乗車、「筑波山神社入口」バス停で降りるのが一般的です（所要時間約40分）。梅まつり期間中には、帰りのつくばセンター行きのバスが「梅林入口」バス停に臨時停車する場合もあります。自家用車を利用する場合、常磐自動車道土浦北ICから国道125号などを経由して約45分です。ただし、梅まつり期間中は梅林周辺の駐車場が大変混雑するため、公共交通機関の利用が推奨されます。

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