箕宿

箕宿（きしゅく、みぼし）は、古代中国で体系化された天文学における主要な星座群、二十八宿の一つに数えられます。この二十八宿は東西南北の四方にそれぞれ七宿ずつ配されており、箕宿はその中で東方を守護するとされる霊獣、青龍の身体を構成する七つの宿のうち、第七番目の宿にあたります。天球上の位置としては、現代の天文学におけるいて座の領域に相当します。

星官としての「箕」は、いて座に輝く四つの明るい星によって形作られるとされています。具体的には、いて座のγ（ガンマ）星、δ（デルタ）星、ε（イプシロン）星、そしてη（イータ）星がこれらの星を構成しています。二十八宿においては、各宿の位置を示す基準となる星が定められており、これを距星と呼びます。箕宿の距星は、この四つの星の一つであるいて座γ星とされています。

箕宿の天区内には、星官として定義された他の星座が三つ存在します。これらの星官も、箕宿を構成する星々やその周辺に位置しており、古代の天文学においてこの領域がどのように認識されていたかを示す手がかりとなります。

箕宿は歴史的に見て、特に「風」との関連において重要な役割を担ってきました。後漢時代の学者である応劭が著した随筆『風俗通義』の中の「祀典篇」には、「風師とは箕星のことである。箕は穀物をふるって選り分けることを主り、風気を引き起こすことができる」という意味の記述が見られます。この記述からわかるように、箕宿は風を司る神格である「風師」と同一視されていました。これは、農作業において穀物を箕（み）でふるう際に風を利用することから、箕宿が風を象徴し、さらには風を制御する力を持つと考えられたためと推測されます。さらに古い時代、特に周代においては、国の安泰と五穀豊穣を祈る重要な祭祀として、風を司る「風伯」としての箕宿と、雨を司る「雨師」としての畢宿（ひっしゅく）を合わせて祀る儀式が行われていたことが伝えられています。このように、箕宿は単なる天上の星の配置としてだけでなく、人々の生活、特に農業と深く結びついた自然現象である風を司る存在として、古くから信仰の対象となっていたのです。

日本の伝統的な暦においては、二十八宿はその日の吉凶を示す暦注としても用いられています。箕宿の日に関しても特定の吉凶が定められており、一般的には、新たな建物を建てることや、何かを造り始めること、すなわち普請や造作といった行為は吉とされています。これは、箕が物を整え、始める道具であることに関連していると考えられます。しかし、それ以外の多くの事柄については凶日と見なされる傾向があり、箕宿の日は全般的に見て、普請・造作以外の重要な行動は避けるべき日柄とされてきました。このように、箕宿は天文学的な位置づけに加えて、人々の日常生活における行動指針としても影響を与えてきた歴史を持っています。

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