算道

算道（さんどう）について

算道とは、日本律令制における大学寮で算術を研究する学科を指します。この学科は大宝律令によって設立された際から存在し、初期の算道家には皇太子・首皇子（のちの聖武天皇）の教育を担当した山口田主や私部石村、志斐三田次などが名を連ねます。算道は、入門的な儒教の講義を基にした本科（後の明経道）とは異なり、計算や測量などの技術を必要とする官人を育成することを目的としていたため、唯一本科から独立した存在と考えられています。

設立と構成

大学寮内で算道を教授する算博士は従七位上に相当し、学生は算生として計30名が在籍していました。これは当時の唐の国子監の算学と同規模であり、算生たちは主に渡来系の氏族出身者が多かったとされています。運営体制は、算博士1名と助教、直講が配置されており、算道院という施設も大学寮内に設けられました。

天平年間には、算博士候補者として算得業生が2名選ばれる制度も始まり、また陰陽寮からの暦算生が算道を学ぶ機会も設けられました。しかし、算道の実態を示す記録が乏しいことから、この体系については様々な批判も寄せられています。

教材

算道の教材には、以下の9種類が定められていました。
1. 孫子算経 - 孫子に帰属される古典的な数学書。
2. 五曹算経 - 基礎的数学知識を「田・兵・集・倉・金」の5章で解説した書。
3. 九章算術 - 現存する中で最古の数学書で、体系的に九章から構成されています。
4. 海島算経 - 測量に関する書。
5. 六章 - 九章算術を基にした書。
6. 綴術 - 高等数学の内容を扱った書。
7. 三開重差 - 高等数学に関する書。
8. 周髀算経 - 天体暦算について触れた書。
9. 九司 - 行政官向けの書とされる。

当時の算道試験である奉試は学令に基づき、一定の問題数を正解しなければ不合格となる厳しいものでした。算生が官人として登用される機会もあり、下級国司として租税の会計等を任されることも少なくありませんでした。

算道の衰退

算道の存在は、一般官人を育成する明経道と並行して発展してきましたが、次第に地位が低下していきます。特に延暦21年には算生の数が減少し、その後も律令制の衰退とともに算道の需要は減少し続けました。この結果、算道は明経道に吸収される形でその役割を終えることとなります。算博士の職も、教育から中央の財務官人としての役割へと移行していきました。

延暦年間には算博士の職が世襲化し、算道の教育体制は閉鎖的になっていきました。算術は次第に呪術的なものとして恐れられるようになり、やがて日本独自の数学、和算が登場する近世初期までその影は薄くなっていきました。算道は、当初の目的を失い、学問よりも秘伝的な性質を帯びつつ衰退の一途を辿ったのです。

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