箸蔵登山鉄道

箸蔵登山鉄道：山寺へのアクセスを担った短いケーブルカーの歴史

徳島県三好市池田町に位置する真言宗別格本山・箸蔵寺。その山門である仁王門へと続くアクセス手段として、かつては箸蔵登山鉄道が重要な役割を果たしていました。本稿では、この短命に終わったケーブルカーの歴史を詳細に解説します。

箸蔵登山鉄道は、土讃本線箸蔵駅近くに位置する赤鳥居駅を起点とし、仁王門駅を結ぶ鋼索鉄道、つまりケーブルカーでした。1930年6月18日に開業したこの路線は、わずか0.4kmという短い距離ながらも、多くの参拝客や観光客を山上の寺へと運びました。単線2両交走式という方式で運行され、軌間は1067mmでした。

1934年12月1日の運行状況を見ると、朝7時5分から夜8時5分まで30分間隔で運行され、繁忙期にはさらに運行本数が増加し、5分または10分間隔での運行が行われていました。所要時間はわずか5分。短いながらも、多くの人の信仰と観光を支えた重要な交通手段でした。

しかし、太平洋戦争の激化により、1944年2月11日、鉄材の不足を補うため「不要不急線」として指定され、わずか14年の歴史に幕を閉じました。この廃止により、国鉄（JR四国）以外の鉄道路線が徳島県から消滅し、1992年の阿佐海岸鉄道阿佐東線開業までその状態が続きました。

戦後、箸蔵寺へのアクセスは、1971年に開業した四国ケーブルの索道（リフトとロープウェイ）が担っていました。しかし、老朽化のため1998年に廃止され、翌1999年には箸蔵山ロープウェイに代替されました。現在もこのロープウェイが、多くの参拝客や観光客を山上の箸蔵寺へと運んでいます。

箸蔵登山鉄道の起点駅であった赤鳥居駅は、独特の建築様式で知られていました。小田急江ノ島線の片瀬江ノ島駅を思わせる、龍宮を模したデザインの駅舎は、多くの人の記憶に残っています。

鉄道免許状は1927年7月8日に交付され、会社設立は1929年8月28日に行われました。わずか1年足らずで開業に至ったことからも、箸蔵寺へのアクセス向上に対する強いニーズがあったことがうかがえます。

1933年から1934年度の営業収支データは、内訳が同一という点で疑問が残りますが、資料の不足により詳細は不明です。

短い歴史ながらも、箸蔵登山鉄道は、地域の信仰と観光に貢献した重要な交通手段でした。その歴史は、現代のロープウェイによって引き継がれ、今もなお、多くの人々を山上の聖地へと導き続けています。 赤鳥居駅のユニークな駅舎デザインも、往時の面影を伝えています。 この短いケーブルカーの物語は、日本の地方鉄道史における興味深い一例として、今後も語り継がれていくことでしょう。

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