米軍再編

米軍再編（Transformation of the United States Army）

米軍再編とは、世界の安全保障環境の変化とアメリカ合衆国の安全保障戦略の転換に対応するために行われる、アメリカ軍の抜本的な改革です。この変革は、物理的、情報的、認知的、社会的な戦闘の4領域すべてに及びます。

再編前夜

冷戦時代、アメリカは資本主義陣営の盟主として、世界の警察を自負し、西側社会の安全保障を主導しました。これは「パクス・アメリカーナ」として、米国を中心とした政治・経済・軍事的な世界秩序を構築し、影響下にある国々の経済の相互依存性を維持し、欧州とアジアでの対抗勢力の拡大を阻止するものでした。

その為、米国は欧州と東アジアに海外基地を設け、駐留米軍を前方展開させ続けました。この時代のアメリカ軍は、重厚長大な階層化組織と多数の重装備を有していました。

1991年のソビエト連邦崩壊により冷戦が終焉を迎え、イデオロギー対立の下で抑えられていた宗教と民族の対立が顕在化しました。グローバリゼーションと地域主義とのせめぎあいといった新たな問題が生じ、米国は世界戦略の見直しを迫られました。

冷戦期を通じて軍事力を世界的に展開してきた米国は、東西対立の最前線であった東西ドイツ、朝鮮半島や日本に駐留軍を配置していました。ソ連崩壊後、これらの地域においては民族問題が再燃し、各地で紛争が激化しました。アメリカ軍は、国連ソマリア活動などで武力介入を実施しました。

東アジア情勢においては、ソ連の崩壊によって軍事的な緊張は緩和されましたが、独自の体制を続ける中国や北朝鮮が強大な軍事力を保有し、これらの国々の不当な拡大・威嚇には抑止力が不可欠でした。米国は日本や韓国などの同盟国の自主防衛力に期待することで、東アジアを安定化させ、米国自身の軍事力は南アジアから中東地域への戦略的展開の自由度を確保していました。

RMA（軍事における革命）の進行

1980年代後半より、情報通信・電子機器技術の急速な進歩に伴い、軍事における革命（RMA）が提唱されました。RMAは軍事装備技術のあらゆる面に応用されていますが、特にC4ISRシステム、精密誘導兵器（PGM）の開発・配備が重要とされました。

湾岸戦争において技術優位が喧伝されると、RMAは広く衆目を集めるようになり、その進行がさらに加速されました。

NCW（ネットワーク中心の戦い）の創案

アメリカ海軍においては、1990年代中盤より、オーエンス提督を中核として、RMAを活用する軍事コンセプトとしてシステム・オブ・システムズ・コンセプトが創案されてきました。

1998年、アーサー・セブロウスキー提督とジョン・ガルストカによってNCWコンセプトが発表されました。NCWコンセプトは、高度なC4Iシステムを背景にした機略戦です。アメリカ海軍は、1998年の艦隊戦闘実験において、NCWコンセプト採用時とPCWコンセプト採用時の相対比較を行うことにより、NCWの有用性を検討しました。

NDP（国防諮問委員会）の勧告とOFT（戦力変革局）の創設

米軍再編の基本概念は、NDPが1997年に発表した報告書において確立されました。この報告書においては、RMAによって防衛技術は急速に刷新されつつあり、アメリカ軍はこれに対応しきれていないことが指摘されました。

2001年9月に発表されたQDR2001において、従来の「脅威ベースのアプローチ」から「能力ベースのアプローチ」への転換が発表されました。QDR2001の発表直前に発生したアメリカ同時多発テロ事件により、能力ベースのアプローチに基づいた米軍再編の重要性は火急のものとなりました。これを受けて10月には、OFTが創設されました。OFTは、米軍再編の中核的推進力として活動しています。

TPG（再編計画指針）の発表

2003年4月、TPGが発表されました。TPGにおいては、軍事力を工業化時代から情報化時代へと移行させてNCWを実現することが最重要とされました。

再編計画

RMAの推進、展開態勢の見直し、組織構造の刷新などが行われました。

RMAの推進

無人兵器に代表される軍事技術が実用化されるようになりました。長距離を無着陸で爆撃できる技術や、無人航空機による偵察や攻撃も実用段階にあります。また、巡航ミサイルは目標画像による識別能力を備えています。21世紀現在では人工衛星による通信ネットワークが充実しているため、指揮や誘導のために前線に居る必要性が薄れています。

展開態勢の見直し

GPRは、海外駐留米軍の体制を根本から見直すものです。アメリカ軍の前方展開体制は、西欧と北東アジアに集中しており、兵力の偏在、駐留国との関係、経済的背景、攻撃に対する脆弱性といった問題点を抱えていました。GPRでは、同盟国との関係強化、不測事態に対処しうる柔軟性の獲得、即応展開能力の獲得、戦略の対象範囲の拡張、兵力ベースから能力ベースへの移行が要点として述べられています。

在日米軍の再編

在日米軍の再編計画では、アメリカ陸軍第1軍団司令部のキャンプ座間への移転と統合作戦部隊、指揮統制機能の効率化を図ることが課題となっています。アメリカ海兵隊は沖縄県の住民の負担を軽減するため、一部部隊の移動や訓練の一部移転を計画しました。

組織構造の刷新

アメリカ軍は、大規模な組織刷新に着手しました。特にアメリカ陸軍では、指揮系統が見直され、UA‐UEx‐UEyとして再構築されました。また、これらの部隊の編制は、高度にモジュラー化されました。

反対意見

米軍の海外からの引き上げや、急速な改革に対する反対意見があります。原油の輸送航路の確保や、受入国との関係、誘導兵器の限界、非正規戦への対応などが懸念されています。

制空権の維持には海外の航空基地が必要であるという意見や、友好国が侵略を受けた場合に迅速に地上戦力を輸送できるか疑問視する意見もあります。また、「仕掛け線」としての機能を求める考えもあります。

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