粟巣野駅

富山県にかつて存在した鉄道路線の廃駅に、富山地方鉄道立山線の粟巣野駅（あわすのえき）があります。現在の富山市にあたる、かつての上新川郡大山町に位置していました。この駅は、時代の移り変わりとともにその役割を大きく変えながら、立山地域の開発やレジャーの拠点として機能した歴史を持っています。

駅の歴史は、富山県営鉄道の一部として始まりました。1937年 10月1日、千垣駅から粟巣野駅までの区間が開業した際、粟巣野駅はその終着駅となりました。当時、ここは立山開発の重要な拠点であり、人や物の集まる中心地として賑わいを見せていました。南富山駅までの運賃が63銭、隣の千垣駅までは14銭という記録も残されています。

その後、粟巣野駅の所属はいくつかの変遷を経ます。1942年5月28日には、千垣駅との間が日本発送電に譲渡され、同社の所属となりました。しかし、翌1943年1月1日には、日本発送電の鉄道事業が富山地方鉄道に引き継がれ、粟巣野駅も富山地方鉄道立山線の一員となります。戦後間もない1946年6月1日には、上滝駅を経由して電鉄富山駅への直通運転が開始され、利便性が向上しました。

1954年4月1日には、粟巣野駅から小見駅（現在の有峰口駅）までの区間が立山開発鉄道に譲渡され、粟巣野駅は一時的に立山開発鉄道線の所属となります。さらに同年8月1日には、立山開発が進む中で、粟巣野駅から先の立山仮駅までの0.8キロメートルが開業しました。そして、1955年7月1日、立山仮駅から現在の立山駅にあたる千寿ヶ原駅まで延伸開業したことにより、ターミナル駅としての機能は千寿ヶ原駅へと引き継がれることになります。

ターミナル駅の地位を失った粟巣野駅は、周囲に人家がほとんどなかったこともあり、利用者が激減しました。普通列車の大半が通過するようになり、かつての賑わいは失われていきます。それでも、駅は粟巣野スキー場への最寄駅として、冬場には一定の利用がありました。大阪から直通の急行「立山」が運行されていた時期もあり、スキー客にとって重要なアクセス手段であり続けました。

しかし、時代の変化はさらに進みます。1975年11月、立山駅から粟巣野スキー場方面への道路整備が完了し、真川大橋が開通しました。これにより、スキー場へのアクセスは自動車やバスが中心となり、鉄道の役割は縮小しました。その結果、利用者の減少は決定的なものとなり、粟巣野駅は1981年 5月22日に廃止され、その歴史に幕を下ろしました。

粟巣野駅は地上駅で、廃止時には2面のホームを備えていました。現在、駅の跡地には、かつてのホームの痕跡や架線柱の一部が残されており、静かに過ぎ去った時代を物語っています。

また、粟巣野駅には特徴的な設備がありました。駅の上部に広がる粟巣野スキー場とを結ぶ、上山用のチェアリフト（高架索道）です。このリフトはスキー場のオープンと同じ1960年12月20日に架けられた1人乗りタイプのものでした。当時、立山駅から直接スキー場へ向かうアクセス道路はなく、一つ手前の本宮駅から長い坂道を登り、極楽坂スキー場を経由するルートしかありませんでした。そのため、電車を利用して粟巣野スキー場へ向かう人々にとって、このチェアリフトは最も早くスムーズにアクセスできる唯一の交通機関として大変重宝されました。しかし、1977年に立山駅から現在のらいちょうバレースキー場方面へ向かうアクセス道路の工事が始まったことに伴い、このチェアリフトも廃止され撤去されました。

粟巣野駅は、立山開発の黎明期を支え、やがてスキーリゾートへの玄関口としての役割を担い、最終的には道路交通の発達によりその役目を終えた、富山地方鉄道における歴史の一ページを飾る駅でした。

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