糞尿譚

糞尿譚

「糞尿譚」は、火野葦平による短編小説で、1937年に同人誌『文学会議』第4号に掲載され、1938年に中短編集として書店から出版されました。この作品は、第6回芥川龍之介賞を受賞しましたが、著者は日中戦争に出征中だったため、授与式には小林秀雄が使者として参加しました。

あらすじ

物語は、九州のある市で糞尿回収業を営む小森彦太郎を中心に進行します。彦太郎はトラックを所有し、これまで投資を重ねてきたにもかかわらず、商売が長らく不振の状態にあった。しかし、民政党の有力者で市会議員の赤瀬とのつながりを持つことで、市の糞尿回収業の指定業者として認定されることに成功します。それでも、市からの予算は期待するほど多くなく、彦太郎の不満は募る一方です。

そんな中、赤瀬から彼の娘婿である阿部を紹介され、新たな支援者を得ます。阿部は、指定業者として受ける予算がかかる費用よりも少ないという理由で、彦太郎に予算増の嘆願書を市に提出させます。そして、その嘆願が認可されると、彦太郎は一時的に希望を持つことになります。

しかし、競争相手の業者たちに対して「組合を作り、共に繁栄しよう」と呼びかけるも、彼らは宴席に出席しただけで逃げてしまいます。さらに、民政党系の新聞記者からは、彦太郎が指定業者になった背景について疑念を持たれ、過去に民政党を支持していたことを追及されます。そんな逆境の中、彦太郎は市が将来的に回収事業を市営にした際の買収資金を得ることを密かに期待しながら商売を続けます。

ところが、ある晩、阿部から飲みの席に誘われ、言われるままにサインした書類が、実は市営化の際の買収額を赤瀬、阿部、彦太郎で分配するという公正証書で、自分の取り分をわずか1/4にする内容であったことが明らかになります。事実を知った彦太郎はショックを受け、道を歩いていると、衛生課長の杉山や、同業者のボス・友田と出会い、それぞれの愤懣を語りながら、共に涙を流して酒を交わします。

しばらくして、彦太郎が糞尿を捨てに指定された場所へ向かうと、地元住民に妨害され、石を投げられる事態に遭遇します。彦太郎の怒りが爆発し、運んできた肥桶を倒してしまいます。そして、自身にかかる糞尿を気にせず、柄杓で糞尿を振りまく姿は、夕日の中で一種の輝きを放っていました。この場面は、彼の苦悩と抗う姿勢を象徴するものとなっており、物語全体のテーマを色濃く反映しています。

映画化

この作品は1957年に、野村芳太郎監督によって『伴淳・森繁の糞尿譚』として映画化されました。原作とは異なる結末が描かれており、映画版のキャストには伴淳三郎が小森彦太郎を、村瀬幸子が小森としのを演じるなど、多彩な俳優が参加しました。また、原作者の火野も小さな役でカメオ出演しています。

この物語は、社会の底辺にいる人々の悲哀や葛藤を描きながら、時にユーモラスに、時に痛切に人生の真実を浮き彫りにしています。

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