紀斉名

紀斉名（きのただな）は、平安時代中期に活躍した貴族であり、優れた文人としても知られています。氏姓は田口朝臣から紀朝臣へと改め、最終的な官位は従五位上・式部少輔にまで昇りました。

生涯

紀斉名は、橘正通に師事して紀伝道を学びました。永延年間（987年～989年）には尾張掾として在職中に、対策（官吏登用試験）に及第し、その才能を早くから開花させました。長徳年間（995年～999年）には大内記に任じられ、その職務の中で、長徳2年（996年）に発生した長徳の変における藤原伊周らの配流宣命や、宋国からの返牒などの重要な文書を執筆しました。長徳3年（997年）には、対策の判者を務めた際、一旦及第が決定していた大江時棟の漢詩に瑕疵があるとして落第させたことが記録に残っています。この件が発端となり、大江時棟の養父であった大江匡衡との間で、省試に関する論争が起こりました。

また、斉名は文人としての活動も積極的に行っており、文徳朝から冷泉朝までの9朝にわたる漢詩を集成した『扶桑集』の編纂にも携わりました。しかし、この大著は斉名の生前には完成せず、彼の死後、長保2年（1001年）に、妻から左大臣・藤原道長に献上されることとなりました。紀斉名は長保元年（1000年）12月15日に43歳という若さでこの世を去りました。最終官位は従五位上行式部少輔兼大内記越中権守でした。

人物

紀斉名は、一条天皇の時代を代表する名文家の一人として知られています。特に漢詩を得意としており、その才能は広く認められていました。しかし、彼の文章スタイルは古典を尊重するあまり、新たな発想や意図に欠けるという評価もあったようです。斉名の家集として『斉名集』が存在したとされ、平安時代後期の藤原通憲（信西）の蔵書目録にその名が記録されていますが、残念ながら現在は散逸し、現存していません。しかし、彼の作品の一部は『本朝文粋』に賦・詩序・対策の答案が、『和漢朗詠集』『類聚句題抄』『江談抄』『新撰朗詠集』などに漢詩が採録されており、その才能の一端を垣間見ることができます。

官歴

長徳2年（996年） 正月10日：大内記に任官
長徳3年（997年） 8月15日：大内記兼越中権守、従五位下に叙位
時期不詳：従五位上に昇叙、式部少輔に任官
長保元年（1000年） 12月15日：卒去（従五位上行式部少輔兼大内記越中権守）

参考文献

『朝日日本歴史人物事典』朝日新聞社、1994年
『日本大百科全書ニッポニカ』小学館、1993年
宮崎康充編『国司補任 第四』続群書類従完成会、1990年
宝賀寿男『古代氏族系譜集成』古代氏族研究会、1986年

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