朝臣

朝臣（あそん / あそみ）とは

朝臣（あそん、あそみ）は、684年（天武天皇13年）に制定された八色の姓（やくさのかばね）の制度で、新たに設けられた姓（かばね）の一つです。八色の姓において、上から二番目に位置づけられ、皇族に与えられた真人（まひと）に次ぐ高い地位でした。そのため、臣下の中では事実上、最上位の姓とされていました。

古くは「あそみ」と読み、阿曽美や旦臣とも表記されました。

制定の背景

朝臣という姓が作られた背景には、従来の臣（おみ）、連（むらじ）、首（おびと）、直（あたい）といった姓の上位に位置する新たな姓を設けることで、姓による優劣や待遇の差を明確化し、天皇への忠誠心が厚い氏（うじ）を優遇するという目的があったと考えられています。これは、天皇を中心とした中央集権体制を強化し、皇室の権力掌握をさらに進めるための政策の一環であったと言えるでしょう。

賜姓の例

『日本書紀』には、684年11月1日に初めて朝臣を賜った氏族として、大三輪氏、大春日氏、阿倍氏、巨勢氏、膳氏、紀氏、波多氏、物部氏、平群氏、雀部氏、中臣氏など、52の氏族が記録されています。これらの氏族は、主に壬申の乱で功績のあった臣の姓を持つ氏族（古い時代に皇室から分かれたものが多い）が優先的に選ばれました。また、連の姓を持つ氏族には、その次に位置する宿禰（すくね）の姓が与えられました。その後も、朝廷への功績があった氏族には朝臣の姓が下賜され、奈良時代には多くの氏族が朝臣を名乗るようになりました。

朝臣賜姓のその後

時代が下ると、貴族や武士の多くが藤原朝臣、橘朝臣、源朝臣、平朝臣などの子孫で占められるようになりました。また、武家の台頭による下級貴族の没落も重なり、朝臣は次第に序列付けのための姓としての意味を失い、公式文書で形式的に使用されるのみとなりました。平安時代以降、公卿（三位以上及び参議）は、氏の下に朝臣、諱の下に公（大臣）ないし卿という敬称をつけて呼ばれるようになりました。一方、四位以下の者は、氏と諱の下に姓をつけて呼称されました。氏ではなく諱の下に朝臣をつけた者は、特に名乗り朝臣と呼ばれました。

例：

足利内大臣正二位源朝臣義政公（足利義政）
細川右京大夫従四位下源勝元朝臣（細川勝元）

有名な朝臣姓氏族

大神朝臣: 568年（欽明天皇29年）に宇佐神宮の前身である鷹居社を建立した大神比義の子孫。
源朝臣: 皇別氏族。公家では源氏長者の地位を長く保った久我家などの村上源氏、武家では源義家以降、清和源氏が勢力を伸ばし、源頼朝以降武家にとって特別な氏姓となりました。足利氏や徳川氏も清和源氏を称しています。
平朝臣: 皇別氏族。桓武平氏が最も著名であり、公家では堂上平氏として旧家2家（半家）、新家3家（名家）が残っています。武家では平家が有名であり、織田氏も平氏を称しています。
藤原朝臣: 神別氏族。中臣鎌足の子孫。長らく朝廷の重職を独占し、摂家を筆頭に堂上家の多くを占めました。武家では伊東氏、小山氏、上杉氏、伊達氏などが知られています。
橘朝臣: 皇別氏族。県犬養三千代、橘諸兄、橘佐為を祖とする。奈良時代から平安時代初期にかけて多数の公卿を輩出しました。
菅原朝臣: 野見宿禰を祖とする。文章道を管掌し、堂上家（半家）が6家残っています。
大江朝臣: 土師諸上を祖とする。大江広元など学者を多く輩出し、武家では毛利氏などを輩出しています。公家では長らく地下家だった3家のうち、代々蔵人を務めた2家の北小路家が江戸時代後期に堂上家に列せられました。
中原朝臣: 十市有象、十市以忠を祖とする。明法道、明経道を司る家系。嫡流の押小路家は局務、市正などを世襲し、朝廷の実務、京都の行政に深く関わりました。
豊臣朝臣: 安土桃山時代に関白・羽柴秀吉に下賜され、秀吉によって多くの大名などに下賜されました。

関連事項

氏姓制度

もう一度検索