紀要

紀要とは

紀要（きよう）とは、大学や短期大学などの教育機関、各種研究所、博物館などが定期的に発行する学術雑誌のことです。英語では「bulletin」や「memoirs」と表記されます。紀要には、研究論文を中心に、研究ノート、教職員や大学院生の活動状況などが掲載されます。

紀要の歴史

日本で最初に「紀要」という名称の学術雑誌が登場したのは、1914年（大正3年）の『東京帝国大学文科大学紀要』です。しかし、1879年（明治12年）に発行された"Memoirs of the Science Department, University of Tokyo, Japan"を日本初の紀要とする見方もあります。この論文には、モースによる大森貝塚に関する論文が掲載されていました。1952年（昭和27年）以降、全国の大学で「紀要」と称する雑誌が刊行されるようになりました。2000年時点では、紀要は400タイトル以上も刊行されており、学術雑誌全体の中でも高い割合を占めています。

紀要の種類

大学（短期大学を除く）では、各学部や研究科ごとに紀要を発行することが多く、毎年多数の紀要が発行されています。高等専門学校や、省庁、自治体などの公的機関の傘下にある研究組織でも紀要が発行されることがあります。また、高等学校などの中等[[教育]]機関でも紀要を発行し、掲載論文がCiNiiに収録されることもあります。紀要の発行形式は、各組織が直接発行する場合と、その組織に所属する者を会員とする学会が発行する場合があります。理学分野のように、学派的な学術誌が中心的な役割を担っている領域では、大学における紀要の発行は減少しましたが、博物館が発行する紀要類は多く残っています。

紀要の内容

紀要には、主に研究論文が掲載されますが、研究ノートや教職員、大学院生等の活動状況なども掲載される場合があります。

紀要の評価と現状

紀要の学術的水準は、査読の有無やそのレベルによって大きく異なります。かつては、「紀要は査読制が導入されていない」「学会誌や英文学術雑誌に比べて論文の水準が低い」「学内や学会にしか公開されず誰も読まない雑誌」などの批判がありました。しかし、近年は各大学が機関リポジトリを整備し、論文のオープンアクセス化が進んだことで、紀要の論文公開の迅速性、紙幅の制限がなく自由に論文を書ける点、そしてオープンアクセス化によって学内外の多くの読者を獲得できるなど、多くのメリットが生まれました。また、紀要による業績稼ぎや研究不正は、オープンアクセス化や読者層の拡大により難しくなっています。紀要は大学が発行するため、研究不正を行った投稿者は研究職を失いかねないためです。

紀要に対する評価

サンキュータツオ氏は、大学の紀要を「査読が甘い雑誌」の一例として挙げつつも、「査読が甘いことは悪いことではない」と評価しています。その理由として、査読の甘い雑誌には、既存の枠にとらわれず、自由に研究を進めている人がいるからだと述べています。また、「そのジャンルの流行ではない手法やテーマをあつかった論文が、査読の甘い雑誌で、ひそかに時代が変わるのを待ちながら投稿されている場合がある」とも述べています。

紀要の入手方法

紀要の多くは一般向けに市販されておらず、発行元と関係のある図書館や研究者へ配布されたり、国立国会図書館などに納本されたりします。一部の紀要は、国立情報学[[研究所]]が運営するNII電子図書館などで一般公開されています。発行元に申し出れば、購入や無料配布が可能な場合もあります。研究者の間では、論文の著者が同分野の研究者らに別刷りを配布することが多いため、紀要そのものの入手が不要な場合も多いです。例外的に市販されている紀要としては、一橋[[大学]]関係の『一橋論叢』や『一橋商学論叢』などがあります。また、大規模な総合大学では、各大学の出版会が紀要集を製本して市販している例もあります。近年では、各大学が機関リポジトリを整備したことで、紀要論文のオープンアクセス化が進んでおり、インターネット上で容易に閲覧できるようになっています。

紀要の意義

紀要は、特に若手研究者の研究発表の場を確保する上で重要な役割を果たしています。研究雑誌の刊行回数が少なく、学際的分野の論文が評価されにくい人文・社会系分野において、大学の紀要は大きな役割を担っています。筑波大学の調査によれば、人社系の紀要論文は本文があった場合にクリックされる割合が非常に高く、強い文献需要が存在することが示唆されています。人文系分野（特に日本文学・歴史学）では、新出資料や翻刻、解題や注釈など、資料紹介を紀要に掲載するケースが多いです。紀要には、資料を活字化し、解題や注釈を加えるという論文以前の基礎作業を公開するという意義があります。また、紀要に英文論文を投稿して英文雑誌への投稿のステップとしたり、日本で行った研究成果を国内に還元したりといった活用法もあります。紀要によっては、投稿資格を発行組織の教員に限定している場合もありますが、関係大学院の大学院生に投稿資格を与えたり、より広く研究者に門戸を開いている例もあります。また、大学院生の研究成果を公刊する目的で、大学院生に投稿資格を限定した大学院紀要が発行されることもあります。このように、紀要は若手研究者のデビューの場としても活用されています。

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