素性

素性：平安時代の歌僧とその作品

素性は、平安時代前期から中期にかけて活躍した歌人であり、僧侶でした。生没年は不明ですが、桓武天皇の曾孫にあたる良家の子として生まれ、父は著名な僧侶・遍昭（良岑宗貞）です。俗名は諸説ありますが、良岑玄利という説もあります。

経歴：宮廷と寺院を繋ぐ歌人

素性は、父・遍昭と共に宮廷と深く関わり、和歌の才能を開花させました。幼少期に兄と共に兄と共に仏門に入り、宮廷に仕え、殿上人にも昇進した記録が残されています。しかし、その後出家し、仁明天皇の皇子・常康親王が創設した雲林院で、父と共に和歌や漢詩の会を開くなど、文化活動を支えました。親王の死後も雲林院に居住し続け、その後は大和の良因院に移り住んだと伝わります。宇多天皇の歌合にも招かれ、その才能は広く認められていました。延喜9年（909年）10月2日には、醍醐天皇の前で屏風に歌を記した記録が残っており、この時点では存命であったことが確認できます。

歌風と代表作：深い愛情と世相の反映

素性の歌は、深い愛情や心情を繊細に表現するものから、世相を鋭く反映したものまで多岐に渡ります。その作風は、古今[[和歌集]]をはじめとする数々の勅撰[[和歌集]]に61首もの作品が採録されていることからも窺い知ることができます。中でも有名なのは、『小倉百人一首』にも選ばれている以下の歌です。

今来むと　いひしばかりに　長月の　有明の月を　待ち出でつるかな

この歌は、待ち焦がれる女性の心情を、秋の夜長の有明の月という情景描写を通して見事に表現しています。他に有名な歌として、次のようなものがあります。

底ひなき　淵やはさわぐ　山川の　浅き瀬にこそ　あだ波は立て

この歌は、恋歌として、あるいは世相を反映した歌として、多様な解釈が可能です。恋歌としては、深い愛情は揺るがないが、浅薄な感情はすぐに波立つという対比が読み取れます。一方で、世相を反映した歌としては、立派な人物は動じないが、軽薄な人物はすぐに騒ぎ立てるという解釈も可能です。

系譜と関連人物：良岑氏と遍昭

素性は、良岑氏という名家に属し、父は僧正遍昭、兄には良岑弘延、由性、弟には椋橋玄理がいました。父・遍昭は宮廷と寺院を繋ぐ重要な人物であり、素性の歌人としてのキャリアにも大きな影響を与えたと考えられます。

素性集と評価：現代への影響

素性の作品は『素性集』としてまとめられており、後世の歌人たちにも大きな影響を与えました。三十六歌仙の一人として、平安時代を代表する歌人として名高く、その歌は現代においても、人々の心を揺さぶる魅力を持ち続けています。数々の歌集に作品が収められ、小倉百人一首にも選出されていることは、その高い評価の証でしょう。彼の歌は、単なる恋愛の歌だけでなく、人間の深層心理や世相を反映した深い内容を秘めており、現代の私たちも共感できる部分が多く含まれていると言えるでしょう。

参考文献

* 元盛, 惟宗光之, 榊原忠次『勅撰作者部類』〈江戸末期〉1830年。NDLJP:1345688。https://iss.ndl.go.jp/books/R000000050-I000028973-00

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