素敵なママ

『素敵なママ』(That's My Mommy)は、1955年に公開されたトムとジェリーシリーズの短編アニメーション作品です。この作品は、長年に渡りトムとジェリーシリーズの製作に携わってきたフレッド・クインビーが退社した後、ウィリアム・ハンナとジョセフ・バーベラが初めて製作と監督を務めた作品として知られています。また、『素敵なママ』は、シリーズで初めてシネマスコープというワイドスクリーン方式を採用した作品でもあります。

物語は、アヒルの巣から転げ落ちた卵が、眠っていたトムのお尻の下敷きになり、中から子アヒルが孵るところから始まります。子アヒルは、最初に見た生き物に対して親として認識する刷り込み現象によって、トムを母親だと信じるようになります。

トムは当然ながら、この子アヒルを食べてしまおうと企みます。しかし、ジェリーはそんなトムを阻止しようとします。ジェリーは、子アヒルに絵本を見せ、「トムはあなたの母親ではない」ということを教えようとしますが、子アヒルはトムへの愛情が深く、ジェリーの言葉を信じようとしません。

一方、トムは料理の準備を始めます。子アヒルはトムを母親として崇拝しており、トムが料理をしている間もそばを離れません。そして、トムが調理中のレシピに目をやると、そこには「アヒルのシチュー」という文字が。子アヒルの運命は、まさに目前に迫っていました。しかし、ここでジェリーが子アヒルに読ませた絵本の内容を思い出し、初めてトムの意図を理解します。

子アヒルは深い悲しみとショックを受けますが、母親であるトムへの愛から、自ら鍋の中に入ることを決意します。しかし、トムは子アヒルの行動を見て、初めてこの小さな生き物への愛情を抱き始めます。トムは子アヒルの身を案じ、鍋の中に入るのを阻止します。

その後、ジェリーは井戸から脱出し、川で仲睦まじく泳ぐトムと子アヒルを目撃します。ジェリーは、まるで子アヒルのように泳ぎ、子アヒルのように鳴くトムを見て、「僕のママだよ！」と嬉しそうに言います。絵本版では、子アヒルは本当の母親と再会し、トムやジェリーと仲良くする、よりハッピーエンドな結末を迎えています。

この作品は、トムとジェリーのいつものコミカルなやり取りだけでなく、動物たちの愛情や、親子の絆といったテーマも描かれています。トムは最初は子アヒルを獲物として見ていましたが、最後には愛情を持つまでに成長します。この変化は、視聴者に深い感動を与えます。また、シネマスコープの導入により、画面の広がりと、よりダイナミックな演出が可能となり、視覚的な魅力も向上しました。日本のテレビでは、1964年から1990年代にかけてTBS系列などで放送され、現在でもDVDなどで鑑賞することができます。

『素敵なママ』は、従来のトムとジェリー作品とは一線を画す、心温まる物語であり、アニメーション史においても重要な作品と言えるでしょう。ハンナ＝バーベラの新たな時代を切り開いた記念碑的な作品として、長く愛され続けることでしょう。

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