紫尾神社 (さつま町)

紫尾神社は、鹿児島県薩摩郡さつま町紫尾に鎮座する神社です。古くは「紫尾山三所権現」と呼ばれ、祁答院七ヶ郷（または九ヶ郷）の総社として、北薩地方の総鎮守として広く崇敬を集めてきました。出水市高尾野町にも同名の神社があり、どちらも国史見在社の論社とされています。また、当神社の拝殿の下からは紫尾温泉の源泉が湧き出ており、「神の湯」とも呼ばれています。

祭神

瓊瓊杵命（ににぎのみこと）
彦火火出見尊（ひこほほでみのみこと）
* 鵜葺草葺不合命（うがやふきあえずのみこと）

神体は3面の大鏡で、これは源実朝が奉納したと伝えられています。また、かつては熊野権現と同体（伊弉冉尊、事解男命、速玉男命）であったという説もあります。

由緒

伝承によれば、紫尾神社の創建は第8代孝元天皇の時代にまで遡るとされています。紫尾山は当初、「紫尾山」と号し、山頂に熊野権現を祀って創祀されたと伝えられています。また、一説には、第26代継体天皇の時代に空覚上人という僧が山中で修行中に神のお告げを受け、社殿を建立し「紫尾山三所権現」と称したともいわれています。この際、紫尾山の山頂近くには上宮権現と呼ばれる小さな社も建てられ、紫尾山は上宮山とも呼ばれるようになりました。さらに、山麓には「紫尾山祁答院神興寺」という寺院も建立されました。

紫尾神社の最初の社祠は紫尾山の山頂近くにありましたが、たび重なる暴風で倒壊したため、里宮として現在の場所と出水市高尾野町に分祀されたという説もあります。また、薩摩郡さつま町柏原の古紫尾神社を下宮とする場合は、現在の紫尾神社は「中宮」と呼ばれることもあります。いずれにせよ、これらの神社は紫尾山を信仰の対象とする山岳信仰を背景に建立されたと考えられます。

『日本三代実録』には、貞観8年（866年）と貞観10年（868年）に薩摩国「紫美神」が昇叙されたという記録がありますが、どちらが当神社を指すかは諸説あります。一般的には、貞観8年の記録がさつま町の紫尾神社、貞観10年の記録が出水市の紫尾神社を指すとされています。

中世には、紫尾山は「西国高野山」と呼ばれるほど多くの修験者が集まる霊山でした。紫尾山祁答院神興寺という供僧の坊が置かれ、修験者たちが修行に励んだといいます。紫尾山は西国有数の入峯修練の場として知られていました。

現在、紫尾山の山頂近くには上宮神社がありますが、これは当神社の元宮であるという伝承があるものの、直接的な関係はないとされています。上宮神社は出水市武本地区の社家によって奉祀されており、かつて空覚上人によって建立された上宮権現との関連性も不明です。

紫尾神社は、鎌倉・室町幕府や江戸時代の薩摩藩主島津氏から崇敬され、社領の寄付や社殿の修復が行われました。特に、寛永年間に当神社の神託によって永野金山が発見されたことは有名で、鉱山関係者からの信仰も集めました。現在でも、交通の便が悪い場所にありながら、初詣には多くの参拝客で賑わいます。

このように、紫尾神社は歴史と信仰に彩られた神社であり、地域の人々の心の拠り所として大切にされています。

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