藤森成吉

藤森成吉：激動の時代を駆け抜けた文学者の生涯

藤森成吉（ふじもり せいきち）は、1892年（明治25年）8月28日に長野県諏訪郡上諏訪町（現在の諏訪市）で生まれ、1977年（昭和52年）5月26日に生涯を閉じた日本の小説家、劇作家です。激動の時代を背景に、社会主義運動に関わりながらも、文学への情熱を燃やし続けたその生涯は、多くの人々に深い感銘を与えています。

生い立ちと文学への目覚め

藤森は、長野県立諏訪中学校（現在の長野県諏訪清陵高等学校・附属中学校）、第一高等学校を経て、東京帝国大学文科大学独文科を卒業しました。東京帝大在学中には、窪田空穂の勧めにより自費出版した小説『波』で文壇に登場しました。この作品で、彼は小説家としての地位を確立し、その才能を広く知られるようになりました。

劇作家への転身と社会主義運動

1926年（大正15年）以降、藤森は劇作に転向し、社会主義への関心を深めていきました。彼の戯曲『何が彼女をさうさせたか』は大きな話題を呼び、社会現象ともなりました。また、全日本無産者芸術連盟の初代委員長を務め、細井和喜蔵の『女工哀史』の出版にも尽力しました。1928年（昭和3年）には、労働農民党公認で衆議院議員選挙に立候補しましたが、次点に終わりました。

治安維持法違反での検挙と転向

1933年（昭和8年）、藤森は治安維持法違反で検挙され、公判中に日本プロレタリア作家同盟から脱退することを表明しました。その後、歴史小説へと作風を転換し、歴史上の人物を題材にした作品を多く発表しました。

戦後の活動と晩年

第二次世界大戦後、藤森は日本共産党に入党し、新日本文学会の創立に参加しました。しかし、党内対立が激化する中で、1950年（昭和25年）までに新日本文学会を離れ、江馬修らと『人民文学』を創刊しました。晩年は社会運動から距離を置き、文筆活動に専念しました。

1975年（昭和50年）には、伊豆大島に文学碑が建立され、彼の初期の代表作である『波』の出版60周年を記念しました。1977年（昭和52年）、散歩中に交通事故に遭い、そのことが原因で亡くなりました。享年84歳でした。彼の墓所は、青山霊園にあります。

藤森成吉の主な作品

藤森は、小説、戯曲、評論、翻訳と多岐にわたる分野で活躍しました。彼の作品には、社会主義思想の影響を受けたものから、歴史上の人物を描いたもの、純文学的なものまで幅広いテーマが含まれています。代表作としては、以下のようなものが挙げられます。

小説: 『波』、『渡辺崋山』、『飢』
戯曲: 『何が彼女をさうさせたか』、『若き啄木』、『大原幽学』
評論・随筆: 『風雨帖』、『愛と闘ひ』
翻訳: 『ショーの見たアメリカとロシヤ』

藤森成吉は、激動の時代を生き抜き、その時代精神を体現した文学者でした。彼の作品は、今なお多くの人々に読まれ続けており、その文学的遺産は後世に引き継がれています。

年譜

1892年（明治25年）：上諏訪町角間で薬種商の長男として誕生。
1914年（大正3年）：東京帝大在学中に『波』を自費出版。
1916年（大正5年）：東京帝大独文科を首席で卒業。岡倉由三郎の娘信子と結婚。
1926年（大正15年）：戯曲『磔茂左衛門』発表（後に上演禁止）。
1927年（昭和2年）：戯曲『何が彼女をさうさせたか』発表。
1930年（昭和5年）：夫妻で渡欧し、ハリコフ会議に出席。
1933年（昭和8年）：治安維持法違反で検挙、歴史小説に転向。
1935年（昭和10年）：小説『渡辺崋山』発表。
1948年（昭和23年）：日本共産党に入党。
1950年（昭和25年）：『人民文学』創刊。
1975年（昭和50年）：伊豆大島に文学碑建立。
1977年（昭和52年）：死去。

参考文献

『20世紀日本人名事典』日外アソシエーツ
「郷土歴史人物事典 長野」第一法規 1978年
* 中田幸子『叛逆する精神　評伝藤森成吉』 国書刊行会 2021

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