結城よしを

結城 よしを

結城 よしを（ゆうき よしを、本名：結城 芳夫、1920年 - 1944年9月13日）は、日本の大正末期から昭和初期にかけて活躍した童謡詩人です。特に、今なお多くの人々に親しまれている童謡『ないしょ話』（山口保治作曲）の作詞者として知られています。しかし、この作品が広く歌い継がれている一方で、その詩人である結城よしをの名前は、残念ながら一般にはあまり浸透していません。

彼の生涯はわずか24年余りと短かったにもかかわらず、創作活動は驚くほど精力的なものでした。確認されているだけで、実に5000曲を超える童謡を作詞したとされています。そのうち、30数曲がレコードとして発表され、当時の人々に届けられました。

生涯と創作活動

結城よしをは、歌人である結城健三とその妻・えつの長男として、1920年に山形県東置賜郡宮内町（現在の南陽市）に生を受けました。父の仕事の関係で鶴岡や酒田に移り住んだ後、1930年からは山形市で過ごしました。1934年に山形市立第四尋常高等小学校高等科を卒業すると、彼は「好きな本を自由に読める」という理由から、山形市内の書店「八文字屋」に住み込みの店員として勤め始めます。この書店での仕事は、彼の後の文学活動に大きな影響を与えたと考えられます。

書店での勤務のかたわら、彼は童謡や童話を熱心に創作し、新聞や雑誌に投稿するようになりました。彼の作品は高く評価され、毎号のように掲載されるほどの人気を得ていきます。この頃の創作意欲は並外れており、毎日2〜3編、多い時には月に50〜60編もの童謡を生み出していたといいます。1938年には、志を同じくする仲間とともに童謡誌『おてだま』を創刊し、童謡の普及にも尽力しました。

彼は、なぜこれほどまでに童謡創作に情熱を燃やすのか、という問いに対し、「私は子どもが好き、絵本が好きだ。絵本を見ていると夢の世界にいるようなほほえましい感情があふれて、すぐ童謡を作ってみたくなる」「楽しいから、うれしいから、思い出があるから童謡を作るのだ」と答えています。そこには、純粋な喜びや子どもたちへの愛情、そして自身の内なる世界への共感と表現への衝動があったことが伺えます。

彼の作品は次第に認められ、1939年には代表作となる『ないしょ話』がキングレコードからレコード化され、広く世に知られることとなりました。この他にも、計34曲の童謡がレコーディングされ、童謡詩人としての確固たる地位を築きつつありました。

しかし、時代は戦争へと向かっていきます。1941年、結城よしをは教育召集を受け、弘前第20部隊に入隊します。野砲兵として、輸送船の護衛などの任務にあたる軍隊生活は過酷なものでしたが、彼の創作活動が途絶えることはありませんでした。手帳の切れ端や通信用紙といったわずかな紙片に、鉛筆で童謡を書き綴っては父へと送ることを続けました。戦地から送られたこれらの詩は約500編に及ぶと言われています。

1944年、彼は南方輸送船団護衛のため、ニューギニア島方面へ転戦します。そこでパラチフス熱に罹患し、郷里から遠く離れた小倉衛戍病院（現在の国立病院機構小倉医療センター）へ運ばれますが、同年9月13日、病魔に勝てず、若き命を終えました。彼の最期の言葉は、「ボクの童謡集を出版してください」であったと伝えられています。その言葉は、彼の童謡への尽きない愛情と、未完に終わった創作活動への強い願いを示すものでした。

没後の顕彰

結城よしをの死後、彼の遺志は父である歌人・結城健三に引き継がれました。1947年には、戦地から送られてきた詩を中心にまとめた童謡集『野風呂』が刊行されました。また、1968年には、軍隊時代の手記の一部が『月と兵隊と童謡 若き詩人の遺稿』として三省堂新書から出版され、その短いながらも波乱に満ちた生涯と、童謡に捧げた情熱が改めて紹介されました。

彼の故郷である山形県には、彼の功績を称えるいくつかの歌碑が建立されています。

山形市にある霞城公園内の児童文化センター前
山形市蔵王にある、父・健三と息子のよしをを顕彰する親子文学碑
南陽市の熊野神社境内にある、『ないしょ話』の碑（父・健三の歌碑と並んで建立されている）
宮内駅前にある、『ないしょ話』と、よしをを案じた母・えつの短歌が刻まれた碑
* 赤湯駅西口通りに点在する、よしをと弟ふじをの童謡碑6基

これらの歌碑は、彼の作品が今なお故郷の人々に愛され続けていることの証です。また、2007年に発表された「日本の歌百選」には、彼の代表作である『ないしょ話』が選定されました。

結城よしをは、夭折したためにその生涯や作品が十分に評価される機会を得られなかった詩人かもしれません。しかし、彼が生み出した5000曲を超える童謡は、彼の純粋な心と子どもたちへの温かい眼差し、そして困難な時代にあっても失われることのなかった希望と情熱の結晶です。彼の代表作が世代を超えて歌い継がれる中で、この多作な、そして短い生涯を童謡に捧げた詩人の名前も、改めて多くの人々に知られるべきでしょう。

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