結晶 (イエスのアルバム)

イエス『結晶』(Union) - 混迷と融合の狭間で生まれた問題作

1991年に発表されたイエスのアルバム『結晶』は、元メンバーを含む8人が参加したことで大きな話題を呼びました。しかし、その制作過程は決して円滑とは言えず、メンバー間の確執や音楽性の違いが浮き彫りとなる結果となりました。

制作の背景

1988年にイエスを脱退したジョン・アンダーソンを中心に結成されたABWH（アンダーソン・ブルーフォード・ウェイクマン・ハウ）は、アルバム『閃光』に続く作品を制作していました。一方、アンダーソン脱退後も活動を続けていた「90125イエス」のメンバー（クリス・スクワイア、トレヴァー・ラビン、トニー・ケイ、アラン・ホワイト）とアンダーソンが和解。ABWHと90125イエスは合体し、8人編成のイエスとして活動することになりました。

アリスタ・レコードは、8人イエスのツアーに先駆けてアルバムを制作することを決定し、プロデューサーとしてジョナサン・エリアスを起用しました。しかし、エリアスが着手した時、ABWHの新アルバムの制作は難航しており、メンバー間の関係も良好とは言えませんでした。

制作の舞台裏

エリアスへのインタビューによれば、ABWHのメンバー間、特にアンダーソンとハウの関係は険悪で、ウェイクマンはプロジェクトへの関心が薄く、ブルーフォードは金銭的な報酬以外に興味を示さなかったと言います。そのため、メンバーが一堂に会して楽曲を制作することが困難であり、ハウがソロ・アルバムのために用意していた素材や、アンダーソンが持っていたアイデアを元に、エリアスが中心となって楽曲を完成させるという手法が取られました。ハウとウェイクマンのパートは、最終的に別のスタジオミュージシャンによって置き換えられました。90125イエスの楽曲は、アンダーソン不在時に録音されたデモにアンダーソンのボーカルを重ねたものが収録されました。

アルバムの内容と評価

完成したアルバムには、8人が一緒に演奏している楽曲はなく、ABWHの楽曲、90125イエスの楽曲、ハウのソロ、ブルーフォードとレヴィンの即興演奏が収録されています。メンバーからは不満の声も上がり、ウェイクマンは「このアルバムは"Union"ではなく"Onion"だ」と皮肉りました。

アルバムは商業的には成功を収め、90125イエスの楽曲「リフト・ミー・アップ」はビルボードのロック・チャートで1位を獲得しました。しかし、ファンからの評価は芳しくありませんでした。

楽曲リスト

1. ウェイティッド・フォーエヴァー
2. ショック・トゥ・ザ・システム
3. マスカレード
4. リフト・ミー・アップ
5. スタート・ザ・デイ
6. セイヴィング・マイ・ハート
7. ミラクル・オブ・ライフ
8. サイレント・トーキング
9. ザ・モア・ウィ・リヴ-レット・ゴー
10. アンコールワット
11. デンジャラス
12. ホールディング・オン
13. イーヴンソング
14. ウォーター・トゥ・ザ・マウンテン

参加ミュージシャン

イエス・メンバー

ジョン・アンダーソン (ボーカル)
クリス・スクワイア (ベース)
トレヴァー・ラビン (ギター)
トニー・ケイ (キーボード)
アラン・ホワイト (ドラムス)
ビル・ブルーフォード (ドラムス)
リック・ウェイクマン (キーボード)
スティーヴ・ハウ (ギター)

セッション・ミュージシャン

ジョナサン・エリアス、トニー・レヴィン、ジミー・ホーンなど、多数のミュージシャンが参加しています。

まとめ

『結晶』は、イエスの歴史の中でも特異な作品であり、メンバーの思惑やレコード会社の意向が複雑に絡み合った結果、生まれたアルバムと言えるでしょう。音楽的な評価は分かれるものの、その制作背景を知ることで、より深く作品を理解することができます。

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