統一ドメイン名紛争処理方針

統一ドメイン名紛争処理方針（UDRP）

概要

統一ドメイン名紛争処理方針（Uniform Domain-Name Dispute-Resolution Policy、略称UDRP）は、インターネット上で使用されるドメイン名の登録に関して発生する紛争を解決するために、ICANN（Internet Corporation for Assigned Names and Numbers）によって設けられた手続きの枠組みです。この方針は、悪意を持って登録または使用されているドメイン名に関する問題を、比較的迅速かつ簡易な行政手続を通じて解決することを目的としています。

UDRPが適用される対象は、主に一般的なトップレベルドメイン（gTLD）と呼ばれる「.com」「.net」「.org」などのほか、一部の国別コードトップレベルドメイン（ccTLD）、そして特定の状況下にある古いタイプのトップレベルドメインに及びます。

設立の背景

UDRPが誕生した背景には、1990年代後半に顕著となった、ドメイン名と商標権との間の衝突問題があります。これは、他者が持つ商標をその所有者の同意なくドメイン名として登録する、いわゆる「サイバースクワッティング」と呼ばれる行為です。

当時、このような行為は商標権を侵害し、インターネット利用者に対して誤解を招く可能性があると広く認識されるようになりました。英国の控訴院がこれを「不正な目的に利用されるもの」と評するなど、その問題性が指摘されました。

ICANNは設立当初からの重要な課題の一つとしてこの問題に対応するため、世界知的所有権機関（WIPO）に対し、商標とドメイン名の矛盾に関する調査報告書の作成を依頼しました。1999年4月30日に公表されたWIPOの報告書では、国際的な性質を持つ紛争に対して公平な立場で対応できる、「権利を侵害するような登録に関する、拘束力のある行政手続き」の確立が推奨されました。この手続きは、複雑な権利主張が対立する訴訟を扱うものではなく、裁判所の判断を妨げるものでもないとされました。報告書では、ドメイン名の登録者は、その名前の登録が「第三者の権利を侵害しないこと」を承認し、もし紛争が発生した場合にはその仲裁手続きに参加することを約束する必要があるとされました。

WIPOの報告書が提案した、紛争解決のための3つの段階から成る判断基準は、UDRPに採用されました。ICANNによる採択を経て、1999年12月1日からUDRPの運用が始まりました。初めてUDRPに基づいて判断が下されたケースは、ドメイン名「worldwrestlingfederation.com」を巡る、World Wrestling Federation Entertainment IncとMichael Bosmanの争いでした。

現在、UDRPに基づく紛争処理は、世界各地の複数の組織によって実施されています。主なものとして、アジアドメイン名紛争処理センター（ADNDRC）、フォーラム（旧称：全米仲裁フォーラム）、世界知的所有権機関（WIPO）、チェコ仲裁裁判所インターネット紛争仲裁センター、アラブ紛争解決センター（ACDR）などがあります。

紛争処理手続き

UDRP手続きにおいて、ドメイン名の登録者に対し権利主張を行う申立人は、自身の主張を認めてもらうために以下の3つの要素全てを証明する必要があります。

1. 類似性: 登録されているドメイン名が、申立人が権利を持つ商標またはサービスマークと、全く同じであるか、あるいは混同を引き起こすほど似ていること。
2. 正当な利益の欠如: ドメイン名の登録者が、そのドメイン名に対して法的に認められる権利や正当な利益を一切持っていないこと。
3. 悪意: ドメイン名が、登録時および使用時に悪意をもって（つまり、他者の権利を侵害していることを知りながら）登録され、利用されていること。

特に「悪意」の有無を判断するにあたっては、紛争処理パネルは限定的ではない、以下のような要素を考慮します。

登録者が、ドメイン名の取得にかかった費用以上の金額で、商標権者に対してそのドメイン名を売却、貸与、または移転することを主な目的として登録したかどうか。
商標権者がそのドメイン名を取得できないように阻止するために登録したかどうか。
商標権者の事業活動を妨害することを主な目的として登録したかどうか。
自らの商業的利益のために、登録されたドメイン名が持つ商標の信用と混同させ、インターネット利用者を故意に自身のウェブサイトへ誘導したかどうか。

UDRPの特色と運用

UDRPの主要な目的は、ドメイン名紛争の解決をより効率的に行うことです。通常の法的な訴訟と比較して、迅速かつ低コストで解決できることが期待されています。手続きにかかる最低費用は1000〜2000米ドル程度とされていますが、これはあくまで最低額であり、ケースによって変動します。

手続終了後の対応

UDRPの手続きで有利な判断が得られなかった場合でも、多くの地域では、国内法に基づきドメイン名登録者に対し訴訟を提起することが可能です。一方、UDRP手続きでドメイン名登録者が申立人に敗訴した場合、そのドメイン名の移転を防ぐためには、判断が下されてから10日以内に商標権者に対し裁判所に訴訟を起こす必要があります。

関連する概念

UDRPは、サイバースクワッティングなどの、ドメイン名と商標権の衝突問題に関連する事案を扱うための重要な制度です。その他、ドメインネームシステム（DNS）やトップレベルドメインといったインターネットの基本的な仕組みに関連する概念も、UDRPの理解には重要となります。また、タイポスクワッティング（商標の綴り間違いを利用したドメイン登録）や、逆ドメイン名ハイジャック（商標権者が、権利のないドメイン名を不当に取得しようとすること）といった問題もUDRPの対象となり得ます。

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