維摩経

概要

『維摩経』は大乗仏教の古典的な経典であり、社会や人々の常識に挑戦する内容が特徴です。この経典の主なテーマは「空思想」で、特に在家の立場からその価値が強調されています。物語の中心には、インドのヴァイシャーリーに住む富裕な長者、維摩キールティが登場します。彼が病に倒れた際、釈迦は多くの弟子や菩薩たちに彼を見舞いに行くよう命じましたが、彼らは過去に維摩との論争でやりこまれたため、躊躇します。最終的に文殊菩薩が彼に訪れ、維摩との問答を経て、彼が真の境地を沈黙によって示したことが物語の結論となります。

この経典は般若経典群と関連していますが、その内容は大きく異なります。般若経典では呪術的な要素が強調され、経典を読むことの効能が説かれますが、『維摩経』では現実の経験を通じて「空」の概念を理解することが求められます。

受容と影響

『維摩経』はインドにおいても広く知られており、2世紀にはナーガルジュナがこの経典を研究し、多くの著作に引用しました。また、4世紀から5世紀に活躍したヴァスバンドゥもこの経典を引用していました。7世紀にはチャンドラキルティーやシャーンティデーヴァがこの経典を用いるなど、その影響は多岐にわたりました。玄奘がインドを訪れた際には、維摩に関する史跡も見つかっています。

『維摩経』はさらなる国際的な広がりを見せ、中央アジアや中国に伝わりました。中央アジアでは多言語に翻訳され、文化に大きな影響を及ぼしました。中国では、後漢の厳仏調による最初の訳があったものの早期に散逸し、その後、支謙や鳩摩羅什などが訳を残しました。鳩摩羅什の訳は特に影響が大きく、中国や日本における仏教文化の形成にも貢献しました。

不二法門

『維摩経』の内容には特徴的な概念として不二法門があります。この法門では相反する2つの事象が根本的には同一であることを説いています。生と死、浄と垢、善と悪など、一般に対立するものとして理解されているテーマが実は一つのものであるという教えが含まれます。実際、維摩は菩薩たちにこの不二法門の理解を促し、最終的には沈黙を持ってその真理を示しました。この場面は特に有名で、「維摩の一黙、雷の如し」とも称され、禅の公案にも取り上げられています。

まとめ

『維摩経』はその戯曲的な構成や深い教えを通じて、大乗仏教の核心を探求する経典です。この経典は、単なる教えを越えて、日常生活や思想に深い影響を与え続けています。日本でも、古くから多くの注釈や解説が書かれており、今なお研究や信仰の対象とされています。

もう一度検索