緑風会

緑風会（りょくふうかい）とは

緑風会は、第二次世界大戦後の日本において、参議院に置かれた院内会派の一つです。主に保守系の無所属議員によって組織され、1947年5月に結成されてから、途中何度かの改称や合同を経て、最終的に1965年6月に解散するまで活動しました。その活動期間中、特に戦後初期の参議院において、議案の行方に影響を与える無視できない存在感を示しました。

誕生の背景と結成

緑風会が誕生した背景には、1947年4月に行われた第一回参議院議員選挙の結果が大きく関わっています。この選挙では、社会党が第一党となったものの、特定の政党に属さない無所属候補が108名もの当選を果たし、院内で最大の勢力となりました。当選した無所属議員、特に旧貴族院議員からの転身組や元官僚の間には、既存政党への不信感や、衆議院とは一線を画した公正で不偏不党の会派を結成したいという機運が高まっていました。山本勇造（有三）氏や河井彌八氏らが中心となり、保守系の有志議員を結集する動きが活発化しました。

当初は、複数のグループによる広範な大同団結構想も存在しましたが、主要政党がそれぞれ独自の会派を結成する動きを見せたため、これは実現しませんでした。そうした中で、山本氏らを中心とした無所属議員のグループは独自の団体結成準備を進め、1947年5月17日、保守系の立場を取る無所属議員を中心に72名が集まり、正式に「緑風会」を結成しました。会派名は当初「中正会」が検討されましたが、既存団体との類似性を避け、特定の政治的イデオロギーを含まない名称として、山本氏の提案した「緑風会」が採用されました。

「緑風会」に込められた思い

「緑風会」という名称には、提唱者である山本勇造氏の様々な思いが込められていました。まず、会派が発足した時期が暦の上で初夏にあたり、また新憲法の下で召集された初の国会（第一回参議院本会議）が5月20日であったことから、新しい日本の国会が船出する時期にふさわしい象徴的な言葉であること。次に、緑が七色の虹の中央に位置するように、左右いずれの極端にも偏らない中道的な姿勢を示すこと。さらに、清新さ、静けさ、平安、そして深く考えることを連想させる色であり、第二院である参議院の性格や、会の精神を暗示していること。そして、国会に新鮮で清らかな風を送り込みたいという希望が込められていたと説明されています。

初期勢力と活動

緑風会は結成直後から勢力を拡大し、第一回参議院本会議が召集された5月20日には所属議員が92名に達し、参議院における最大会派となりました。その構成員は、旧華族を中心とする旧貴族院議員、政府官僚出身者、文化人などが中心でした。初代参議院議長には、緑風会から松平恒雄氏が選出されるなど、戦後初期の参議院運営において主導的な役割を担いました。同年10月には、田中耕太郎氏の草案を基に綱領を制定。この綱領は、新憲法の精神に立ちつつも、左右両極を排し、中道的な立場に立つことを目指すものでした。また、家庭や伝統の価値、労使協調などを重視する姿勢も盛り込まれていましたが、最終的には政治色を抑える修正が加えられました。

一時は、国民協同党との統一会派を模索する動きもありましたが、緑風会の規約による二重党籍の禁止や、国民協同党側の会派内での独自活動などが原因で、短期間で解消に至っています。

「是々非々」の軌跡

緑風会は、参議院のみを活動の場とし、衆議院に候補者を擁立したり政権獲得を目標とするような一般的な政党とは一線を画していました。基本的なスタンスとしては保守政党に協力する姿勢を取りましたが、特筆すべきはその「是々非々」の原則と、所属議員に対する党議拘束を一切設けなかったことです。このため、同じ法案に対して緑風会所属議員が賛成と反対、双方の立場で討論を行うような場面も見られました。衆議院を通過した法案が、参議院で緑風会の修正案によって変更されたり、場合によっては否決されることもありました。破壊活動防止法や教育二法などの重要な法案においても、緑風会独自の修正案を提出し、これを可決させた実績があります。これは、個々の議員の識見を重んじ、特定の政党の利害や方針に縛られないという緑風会の独自性を示すものでした。

片山内閣には和田博雄氏、栗栖赳夫氏が閣僚として入閣し与党の一員となりましたが、両名とも後に他の政党へ移籍しています。吉田内閣の一時期を除き、緑風会が明確に与党として行動することは稀でした。

衰退と終焉

しかし、参議院内における政党の力が強まり、政党政治が進展するにつれて、緑風会の勢いは徐々に弱まっていきました。特に、吉田茂首相が多くの官僚出身者を衆議院選挙で当選させたことから、官僚出身者の政党への抵抗感が薄れ、緑風会所属議員が保守政党（主に自由民主党）へ移籍するケースが増加しました。これは、緑風会がその基盤としていた層を失うことを意味しました。

憲法改正論議においては、緑風会の有志が改憲を目指す議員連盟に参加するなど保守的な立場を示し、また保守合同を推進する動きも見られましたが、緑風会自身は政党の利害や政争から距離を置くという建前から、自らは保守合同には加わりませんでした。

1960年には「参議院同志会」と改称し、1962年には無所属議員の会派と合同して「第二院クラブ」となりましたが、これは院内交渉団体としての資格維持が主な目的でした。しかし、合同を主導した議員らが自民党へ移籍したことなどもあり、再び緑風会単独の会派に戻ります。院内交渉団体資格を失ったこともあり、緑風会は次第にその存在感を薄れさせていきました。

そして、1965年の第7回参議院通常選挙では新たな候補者を擁立せず、同年6月2日、自然消滅に近い形でその歴史に幕を閉じました。解散後、旧所属議員らは懇親団体として「緑風会」を結成し、交流を続けました。

評価と後世への影響

緑風会に対する評価は、その活動時期によって、また立場によって異なっています。55年体制以前、緑風会が議案の成否を左右する力を持っていた頃は、「党議拘束がなく議員一人一人の意見がバラバラで、状況によって態度を変える不安定な会派だ」「政党政治への理解が浅い」といった批判的な見方も存在しました。

一方で、55年体制以降に参議院の政党化が進み、その独自性が失われたことへの反省が生まれる中で、個人の識見を尊重し、党利党略に囚われない「是々非々」の姿勢を貫こうとした緑風会の存在を再評価する向きもあります。ただし、その構成員や政策・主張が保守政党と類似していたこと、解散後に多くの議員が自民党へ合流したことなどから、「政府与党の引き立て役に過ぎず、独自性を十分に発揮できなかった」といった革新陣営からの低い評価も存在します。

短命に終わった緑風会ですが、その名称や精神は、現在でも一部の政治団体に引き継がれています。例えば、現在の国民民主党の参議院会派は「国民民主党・新緑風会」と名乗っており、かつて存在した「みどりの風」もその名称の起源が緑風会にあることを示唆していました。また、地方議会や社会福祉、医療の分野にも同名の団体が存在しており、「緑風」という言葉が、特定の理念や歴史的流れを示すシンボルとして現代に息づいていることがうかがえます。

緑風会は、戦後日本の国会、特に参議院がそのあり方を模索する中で生まれたユニークな存在であり、その活動は戦後政治史の一断面を物語っています。

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