罪己詔

罪己詔とは

罪己詔（ざいきしょう）は、古代中国や日本の君主が、自らの過ちを認めて反省し、政策の変更や民への謝罪を示すために発布した詔書の一種です。日本では「御自責（ごじせき）の詔」とも呼ばれました。この詔は、君主が天の意志に従い、民を治める存在であるという思想に基づいています。

概要

罪己詔は、儒教の天人相関説、すなわち天と人が密接に関わっているという考え方を背景にしています。この説では、君主の不徳や政治の誤りが天譴（てんけん）として、天変地異、特に地震などの形で現れるとされました。そのため、天災が発生した場合、君主は自らの不徳を反省し、罪を認める必要がありました。

この詔書の典拠としては、『春秋左氏伝』の「己を罪する」という言葉が挙げられます。地震学者の今村[[明恒]]の研究によれば、日本の天皇が発した「御自責の詔」でも、この故事が引用されるのが一般的でした。天災、特に地震は、天からの最も強い警告とされ、為政者の不徳によって罪のない民衆が犠牲になることは、極めて恥ずべきことと考えられていたのです。

中国史における罪己詔

中国で最も古い罪己詔（に近いもの）は、『春秋左氏伝』に記載された宋公の例です。宋公は、自身の不徳が原因で災害が発生したと自己を責め、賢者から称賛されました。ただし、「詔」という用語は秦の始皇帝が創出したものであり、春秋時代には存在しませんでした。

正式に罪己詔を発布した最初の皇帝は漢の文帝であり、最後は清朝の宣統帝（愛新覚羅溥儀）です。また、袁世凱も帝制廃止後に類似の文書を出しています。偽作された『偽古文尚書』の「湯誥」や「秦誓」も、罪己詔の典拠としてしばしば使用されました。特に「秦誓」には、「国が安定しないのは一人の不徳による」という言葉があり、為政者の責任を明確に示しています。

中国の学者、蕭瀚の調査によると、『二十五史』には79人の皇帝が罪己詔を発布した記録があります。王朝ごとの内訳は、漢代15人、三国時代3人、晋代7人、南朝14人、北朝1人、隋代1人、唐代8人、五代6人、宋代7人、遼代1人、金代1人、元代4人、明代3人、清代8人となっています。

中国の罪己詔は、皇帝が自分の責任を認め、民衆に謝罪する意志を示すもので、対象は天変地異だけでなく、日食、敗戦、異民族の侵攻、民衆反乱など多岐にわたります。詔書の発布に加え、皇帝は宗廟で先祖に祈りを捧げ、食事を減らして謹慎するなど、精神論的な要素が強く、臣下は皇帝の恥を避けることが重要だと考えられていました。時には、宰相が責任を負わされることもありました。

日本史における罪己詔

日本の天皇による罪己詔は、奈良時代から平安時代に集中しています。今村[[明恒]]の研究によれば、日本の罪己詔には一定の型があり、天譴論を背景に、天皇の不徳が天災を招いたと自らを省みるものでした。また、東北地方で震災が発生した際には、和人と蝦夷を区別せず、平等に復興と減税を行うよう指示する文章が含まれていました。中国の罪己詔とは異なり、人種差別を戒め、具体的な減税や復興策が伴う点が特徴です。火山噴火の場合には、火山に官位が授与され、仏教、神道、陰陽道による祈願も行われました。

平安時代の貞観年間以降、日本の天皇による罪己詔は発行されなくなります。これは、藤原氏による摂関政治や、後の武家政治によって、為政者が責任を認めることが権力失墜につながるため、年号の改元でごまかすようになったためと考えられています。江戸時代には、地震が天譴ではなく自然現象であるという認識が広まり、精神的な謝罪よりも実質的な災害対策が重視されるようになりました。

中国歴代の主な罪己詔

以下に、中国の歴代王朝で発布された主な罪己詔の例を挙げます。

漢代:
文帝は、不作、洪水、旱魃、疫病を憂い、自分の政治の落ち度を反省する詔を出しました。
武帝は、輪台罪己詔を出し、内容が豊富で保存状態も良いことで知られています。
明帝は、日食を理由に、自分の責任を認め、群臣の直言を奨励しました。
唐代:
太宗は、蝗害の際に、民の作物を食べるなら自分の体を食べよと述べるなど、民を思う気持ちを示しました。
憲宗は、大旱魃の際に雨を求めて罪己詔を発しました。
宋代:
宋王朝は、異民族の侵攻に苦しみ、北宋末期から南宋にかけて、しばしば罪己詔を発しました。太宗、徽宗、高宗、孝宗、寧宗、理宗、恭帝など、多くの皇帝が罪己詔を出しました。
明代:
建文帝は、燕王の軍が迫った際に罪己詔を出しましたが、文書は現存していません。
成祖は、紫禁城の火災を機に、自らを省みて罪己詔を発しました。
英宗、代宗、武宗、世宗、神宗も、天災や災禍を理由に罪己詔を発しました。
思宗は、李自成の反乱などの国難に対応するため、6回罪己詔を発しましたが、効果はありませんでした。
清代:
順治帝は、生前に6回、臨終の際には14条の罪を挙げて、自己を厳しく批判しました。
康熙帝、嘉慶帝、光緒帝も、地震や動乱を理由に罪己詔を発しました。
宣統帝は、辛亥革命の際に、摂政王が罪己詔を発しました。

これらの罪己詔は、君主が自らの過ちを認め、天意を畏れ、民への責任を果たそうとする意思を示すものでした。しかし、その効果は様々であり、必ずしも政治状況を改善するものではありませんでした。

注釈

罪己詔は、為政者が自らの責任を認め、過ちを改めるための重要な手段でしたが、同時に権力構造や政治状況を反映するものでもありました。

外部リンク

* “罪己詔”与中国古代政道・蕭瀚

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