羅老 (ロケット)

羅老号：韓国の宇宙開発における試練と成功

羅老号（ナロホ、KSLV-I）は、[韓国航空宇宙研究院]とロシアのクルニチェフ国家研究生産宇宙センターが共同開発した、韓国初の人工衛星打ち上げロケットです。390名にも及ぶ専門家チームが、ロシアのアンガラロケットを基に開発に携わりました。射場である羅老宇宙センターもロシアの技術支援を受けて設立されました。

ロケットの1段目はロシア製の高性能液体燃料ロケットでしたが、2段目は韓国が独自開発した固体燃料ロケットでした。この2段ロケットの推力や比推力が低性能だったため、羅老号全体の性能はLEO（低地球軌道）へのペイロード（搭載能力）が100kgと、同規模の他国ロケットと比較して著しく低くなっていました。例えば、日本のM-Vロケット（約140トン）は1850kg、H-Iロケットは2200kgのペイロードを有していました。この性能差は、羅老号が各国の技術を寄せ集めた「つぎはぎロケット」であったことを物語っています。

開発の経緯

羅老号の開発計画は、2002年にKARIがKSLV-I計画として正式に決定されました。開発費は約8200億ウォンに上り、その内訳は羅老号開発費が約5025億ウォン、羅老宇宙センター建設費が約3200億ウォンでした。2009年5月、一般公募で選ばれた「羅老」という名称が正式に採用されました。

当初は韓国独自の技術による開発を目指していましたが、液体燃料ロケットKSR-3のエンジンに重量過多と能力不足の問題が浮上。そのため、技術導入を検討し、アメリカ、フランス、日本、中国、インドなど各国に技術協力を打診しました。しかし、アメリカは軍事転用を懸念、フランスと日本は高額な費用を提示、中国とインドはミサイル技術管理レジーム（MTCR）への非加盟により協力は不可能でした。結果、ロシアが最も費用対効果の高い提案を行ったため、協力相手として選定されました。

ロシアとの技術協力は2001年に覚書を交わして開始されましたが、費用面などで交渉は難航。2004年にクルニチェフ社との契約が締結され、羅老号の開発が本格化しました。この契約では、1段目の完成品をロシアが供給し、韓国は2段目の開発と組み立てを担当することになりました。しかし、この契約には不平等な条項も多く含まれており、韓国側がロケットの核心技術にアクセスできないなど、様々な制約がありました。

打ち上げの試行錯誤

羅老号の初打ち上げは2009年8月25日に行われましたが、フェアリング（衛星を覆う保護カバー）の分離に失敗し、衛星の軌道投入に失敗しました。2度目の打ち上げは2010年6月10日に行われましたが、発射137秒後に爆発し失敗に終わりました。

2度の失敗後、3度目の打ち上げに向けた準備が始まりました。ロシア側は当初、失敗の原因を韓国側の2段目にあると主張していましたが、韓国側は1段目のボルトの欠陥を指摘。両国の主張が対立する中、3度目の打ち上げは、幾多の困難を乗り越え、2013年1月30日にようやく成功しました。これは、ロシアとの契約満了をもって、羅老号の運用を終了しました。

北朝鮮の銀河3号と「韓国版スプートニク・ショック」

羅老号の打ち上げ成功は、韓国の宇宙開発における国際的地位向上に大きく貢献するはずでした。しかし、2012年12月、北朝鮮が銀河3号による人工衛星打ち上げに成功したことで、韓国国内では強い落胆と衝撃が広がりました。これは「韓国版スプートニク・ショック」とも呼ばれ、韓国の宇宙開発技術が北朝鮮に遅れをとっていることが改めて浮き彫りになりました。

後継機「ヌリ」への継承

羅老号の後継機として開発されたのが「ヌリ」です。2021年10月の初打ち上げは失敗しましたが、2022年6月には衛星の軌道投入に成功しました。興味深いことに、羅老号打ち上げ成功後にロシアが韓国に残したRD-151エンジンは、ヌリの開発に活用されていることが明らかになりました。これは、ロシアの経済的混乱という特別な状況下で起きた出来事であり、韓国の宇宙開発にとって幸運な出来事だったと言えるでしょう。

羅老号の開発と打ち上げは、韓国の宇宙開発において大きな転換点となりました。数々の困難を乗り越え、培われた技術と経験は、後のヌリ成功の礎となりました。羅老号の開発の歴史は、韓国の宇宙開発の挑戦と成長の物語であり、未来への希望を示すものです。

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