群馬弁

群馬弁（上州弁）詳解

群馬県で用いられる方言は、古くから「上州弁」と呼ばれ親しまれてきました。地理的には、かつての上州地方に相当する地域で話されており、西関東方言に分類されます。近隣の茨城弁や栃木弁（足利市周辺を除く）が東関東方言に属する一方、群馬弁は埼玉弁や房総弁と共通の語彙や文法構造を持つ点が特徴です。

しかし、群馬弁と一言で括るには地域差が大きすぎます。県内を大きく分けると、北部と西部の山間部、中部の平野部、そして東南部の3つの地域方言に分類できます。特に東南部の邑楽郡周辺は、西関東方言と東関東方言の両方の特徴を併せ持つ中間的な方言地域と言えます。

助動詞「べえ」の多様な用法

群馬弁で特に注目すべきは助動詞「べえ」です。これは、意志・勧誘・推量を表す多機能な助動詞で、関東方言に広く見られます。しかし、群馬弁における「べえ」の用法は、時代や地域によって変化に富んでいます。

古くは、意志・勧誘と推量の両方を「べえ」で表現していましたが、共通語の「～う」と「～だろう」の区別の影響を受け、昭和中期頃には群馬県や埼玉県などで意志表現に「べえ」、推量表現に「だんべえ」と使い分けるようになったと考えられています。

1980年から2010年にかけての若年層を対象とした調査では、2010年には再び「べえ」一本化の傾向が見られました。同時に、「んべえ」という新しい方言表現が東毛地域から県内に広がりを見せています。これは「見るべえ」のような「る」音の変化から派生したと考えられています。

「べえ」の活用は動詞によって異なり、五段活用動詞の終止形、一段活用動詞の未然形に付く場合などがあります。形容詞には「～かんべえ」という形で推量を表す場合もあり、地域によっては促音化して「～っぺえ」となることもあります。

特有の語彙と文法

群馬弁には、他の地域の方言にはない独特の語彙や文法表現が多くあります。動詞では、「あるって」（歩く）、「いぐ」（行く）、「おしこくる」（強く押し込む）、「ぶちゃる」（捨てる）など、共通語にはない表現が用いられます。これらの表現は、地域や世代によって微妙に異なる場合があります。

形容詞も独特の表現があり、「おやげない」（かわいそう）、「おおいい」（多い）、「かっこむ」（急いで食べる）、「やらかい」（柔らかい）、「んまい」（美味しい）など、共通語とは異なる表現が用いられます。また、「けちに」（古くてみすぼらしい）や「もじっけぇ」（可愛い）などは、特定の地域に限定された表現です。

副詞や助詞にも独特の表現があり、「まあず」（全く）、「まっと」（もっと）、「～かい？」（～なの？）、「～きし」（～だけ）など、群馬弁独特の言い回しが多く存在します。

アクセント

群馬弁のアクセントは、一般的には中輪東京式アクセントに属し、東京標準語との差は大きくありません。ただし、板倉町周辺では一型アクセントまたはそれに近い曖昧なアクセントが用いられる地域もあります。また、三拍名詞のアクセントは、地域や単語によって東京標準語とは異なる場合があります。

群馬弁を取り巻く文化

群馬弁は、地元の文化や歴史と深く結び付いています。近年では、アニメや漫画などを通して群馬弁が紹介される機会が増え、若い世代にも親しまれるようになっています。また、地元出身の著名人がメディアで群馬弁を話すことで、方言への関心を高める一助となっています。

群馬弁は、多様な地域差と歴史的変遷を経て現在に受け継がれてきた、奥深く魅力的な方言です。今後もその特徴や変化を研究し、保護していくことが重要です。

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