西関東方言

西関東方言について

西関東方言は、栃木県南西部（足利市付近）、千葉県、東京都（島嶼部を除く）、山梨県の郡内地方（笹子峠以東）、群馬県、埼玉県、神奈川県のほぼ全域で話されている日本語の方言群です。東関東方言（茨城弁・栃木弁）と並んで関東方言を構成しますが、アクセントや音韻の面で東関東方言とは大きな違いがあります。

首都圏方言の成立と伝統方言の衰退

東京都、千葉県、埼玉県、神奈川県の大部分は、東京への通勤圏として全国各地から人々が集まるため、戦後には共通語をベースとしつつ、西関東方言の特徴を一部受け継いだ「首都圏方言」が形成されました。その結果、若い世代では伝統的な方言の多くが失われつつあります。特に横浜で使用されていた方言は、江戸時代末期の開港以来、各地から多くの人々が移り住んだため、明治時代初期にはすでに失われていたと言われています。

アクセント

西関東方言のアクセントは、ほとんどの地域で東京式アクセントが用いられています。千葉県中部では母音の種類によってアクセントが変化する場合がありますが、群馬県、埼玉県中部・西部、東京都（島嶼部除く）、千葉県北部・南部、神奈川県、山梨県では、ほぼ均質な「中輪東京式アクセント」が用いられています。一方、東関東方言の無アクセント地域と接する埼玉県東部には、「埼玉特殊アクセント」と呼ばれる曖昧なアクセントが存在しますが、近年は中輪東京式アクセントに移行する傾向があります。

日本語の方言において、無アクセント地域との接触部には外輪東京式アクセントが分布することが多いのですが、西関東方言では中輪東京式アクセントが直接無アクセント地域に接している点が特徴的です。この理由について、山口幸洋は、かつて関東西部では外輪東京式アクセントが使われていたものの、徳川家康の関東移封に伴い、三河地方出身の武士団が江戸に移住したことで、西三河由来の中輪東京式アクセントが江戸を中心に広まり、外輪東京式アクセントを置き換えたという説を提唱しています。

音韻・音声

西関東方言の音韻体系は、一般的に共通語とあまり変わりませんが、連母音の融合が盛んに行われます。「アイ」「アエ」は「エー[eː]」や「エァー[ɛː]」に、「オイ」は「エー」に、「ウイ」は「イー」のように変化します。また、母音の無声化が顕著で、この特徴は首都圏方言にも影響を与えています。群馬県邑楽地区、栃木県足利市付近、埼玉県東部、千葉県北部などでは、イとエの混同や、語中・語尾のカ行・タ行の濁音化が見られ、東関東方言的な要素も認められます。

共通語では、語中・語尾のガ行音は鼻濁音[ŋ]で発音され、埼玉県南部、東京都、神奈川県、山梨県郡内地方でも[g]との区別は明確ですが、群馬県、埼玉県（南部以外）、千葉県（北部以外）では鼻濁音がなく、破裂音[g]または摩擦音[ɣ]で発音されます。

文法

西関東方言では、意志や推量を表す際に「べ（ー）」が使われます。動詞には「書くべー」（書こう）、「起きべー」（起きよう）のように接続します。群馬県や埼玉県などでは、推量を表す場合には「書くだんべー」（書くだろう）のように「だんべー」を用いて意志と区別する傾向があります。形容詞や過去を表す「た」に付く場合は、「たかかんべー」（高いだろう）、「書いたんべー」（書いただろう）のようになりますが、昭和中期以降は「たけーべー」「書いたべー」のように言い切りの形に付く用法が福島県から南下し、埼玉県などにも広がりました。「べー」は「べし」に由来し、関東地方、東北地方、北海道で広く使用されています。

また、サ行変格活用（「する」）とカ行変格活用（「来る」）は上一段活用化する傾向があり、千葉県や群馬県などでは「こられる」を「きられる」と言ったり、千葉県、埼玉県、群馬県などでは「こない」を「きない」や「きねー」と言ったりします。

下位方言

西関東方言は、地域によってさらに細かく分類されます。

群馬弁（上州弁） - 群馬県
足利弁（両毛弁） - 群馬県東毛地域、栃木県足利市付近
千葉弁（房総弁） - 千葉県（東関東方言に分類される場合もある）
東総弁 - 千葉県北東部
房州弁 - 千葉県旧安房国を始めとする房総半島南部
武州弁 - 東京横浜周辺を除く旧武蔵国
埼玉弁 - 埼玉県
秩父弁 - 埼玉県秩父地方
多摩弁 - 東京都多摩地域
相州弁 - 神奈川県旧相模国
東京横浜方言 - 東京23区、川崎市、横浜市（西関東方言から独立した区画とされることもある。西日本方言の影響が見られる。）
江戸言葉（下町言葉） - 東京下町地域
山の手言葉 - 東京山の手地域
横浜弁 - 横浜市街地
郡内弁 - 山梨県郡内地方
その他 - 静岡県の伊豆方言・駿河方言（富士川以東）、長野県の北信方言・東信方言は通常東海東山方言に分類されるが、共通点から西関東方言に含める場合がある。特に北信方言と東信方言は、金田一春彦の初期の方言区分案では西関東方言に含まれていた。

参考文献

飯豊毅一・日野資純・佐藤亮一編『講座方言学 5 関東地方の方言』国書刊行会、1984年

関連項目

東日本方言
東関東方言
東京方言
首都圏方言
標準語
共通語
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