羽太正養

羽太正養：蝦夷地経営に貢献した幕末の官僚

羽太正養（はぶとまさやす、1752-1814）は、江戸時代中期から後期にかけて活躍した旗本です。箱館奉行、松前奉行として蝦夷地（北海道）の行政に携わり、その功績は現在も北海道の歴史に刻まれています。通称は弥太郎、左近、主膳、庄左衛門などと呼ばれ、特に千歳川に千歳という地名を与えたことは広く知られています。

華麗なる経歴と蝦夷地での活躍

1752年、旗本羽太正香の子として誕生した羽太正養は、1768年に将軍徳川家治に御目見し、1776年には家督を相続しました。その後、1780年には大番に属し、1789年には御蔵奉行、1793年には田安家用人、1796年には西丸目付、本丸目付を歴任するなど、幕府内での地位を着実に築き上げていきました。

羽太正養の経歴における転換期は、1799年です。この年、幕府が東蝦夷地の仮上知を行うにあたり、彼は松平忠明、石川忠房、大河内政寿、三橋成方らとともに蝦夷地取締御用掛に任命されました。これは、蝦夷地の開発と統治を担う重要な役職でした。

1801年には東蝦夷地を国後島まで巡視し、1802年には新設された蝦夷奉行に就任、500石を加増されました。同年には安芸守にも任命され、その権勢をますます強めました。箱館奉行は毎年春を境に1年ごとに箱館と江戸を交代で赴任する制度でしたが、羽太正養は1804年と1806年に箱館に在勤しました。

箱館奉行在任中は、箱館奉行所建設にも尽力しました。箱館山で発見された湧水を「富山泉」と命名し、歌を添えてその功績を称えた逸話も残されています。また、1805年には現在の千歳川であるシコツ川を、「鶴は千年、亀は万年」という故事にちなんで「千歳川」と命名しました。この命名が、現在の千歳市名の由来となっています。

1806年には箱館大火が発生しましたが、羽太正養は自ら馬に乗り消火指揮を行い、被害拡大を防ぐことに尽力しました。1806年から1807年にかけて発生した文化露寇では、東北諸藩への動員を指揮するなど、蝦夷地の防衛にも貢献しました。

1807年には奉行所の松前への移転に伴い、松前奉行に任じられました。しかし、同年11月、文化露寇の責任を問われ、松前奉行を罷免されてしまいました。その後、逼塞処分を受け、小普請組入りとなり、1814年に没しました。その墓所は東京都品川区南品川天妙国寺にあるとされていますが、現在は無縁墳墓となっています。

歴史的価値の高い記録

羽太正養は、『休明光記』と『休明光記付録』という2つの記録を残しました。これは1799年から1807年までの蝦夷地での経験を記したもので、幕府による蝦夷地統治の実態を知る上で貴重な史料となっています。現在、手沢本は函館市中央図書館が所蔵しており、デジタル資料としても公開されています。

まとめ

羽太正養は、幕府の重要な役職を歴任し、蝦夷地の開発と統治に大きく貢献した人物です。千歳という地名の由来にもなった彼の功績は、北海道の歴史において重要な位置を占めています。しかし、晩年の失脚は、当時の厳しい政治状況を反映していると言えるでしょう。彼の生涯と業績は、幕末の北海道の歴史を考える上で、欠かせない要素となっています。彼の残した記録は、現代においても歴史研究に役立てられており、その価値は今もなお色褪せていません。

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